七月に入ると急速に新体制が整い、組み立て係からは企業の社員の姿が次々と消えていった。塗工係に移った人、他所の課に移った人、新しいラインの立ち上げに関わる人たちなど、行く先はそれぞれらしい。
 そういった変化に敏感なのは掃除のおばさんで、由梨は情報を引き出そうとやたらと話しかけてくるおばさんをあしらうのに苦労した。

 派遣の新人たちが立ち上がり、組み立て係の班編成も一新され、何より大きな変化は、睦子と同じように小田もラインから抜けたことだった。
「小田くんもデスクワーク?」
 日々の日報作成や居室とのやりとりだけなら、睦子一人で足りているようにも思えるが。
「あの人は工程管理者になるんだよ」
 睦子はシニカルに口を曲げて答えた。
「このフロアでいちばん偉い人」

 責任者ということか。でもそれなら、キャリア自体は睦子の方が上ではないのか。派遣の担当とも親しいし企業側の社員さんたちとも仲がいい。
「そりゃあ、あっちは男だし」
 毒の滲んだつぶやきに由梨は何も言えなくて。本当にそんな理由なのだろうか、思いはしたけれど。

 それから小田は日勤で請負化に向けての資料を作成しているらしかった。
「だって、塗工係は?」
「塗工は溶剤の扱いとか資格がいるから難しいみたい。とにかく組み立てと検査だけでも請負化にもってきたいって」
 今まで水面下で準備されていたことだとしても、由梨には全ての動きが急速すぎるように見える。由梨にはわからないが社会的制度的に後押しするような事由があったのかも知れない。

「うちの職場みたいな技術系とは違うからさ。オートメーション化されてる工程なら請負業者が設備投資する必要もないわけでしょ? 完全請負と言うには歪だけど」
 美紀はそんなふうに言っていた。
「よくわかんないけど何が変わるのかな?」
 連休などには観光客が訪れる商業施設で、名物の大きなハンバーガーにかぶりつきながら由梨は尋ねる。
「そりゃあ、お給料が上がるんじゃない?」
 美紀はにやりとする。
「え、そうかな……」

 信じがたくて由梨は目を丸くしたが。ほどなく昇給の通知をもらって由梨は驚いた。時給を上げてもらったあげくに、これからはリーダー手当というのももらえるらしい。

「由梨ちゃん頑張ってるもん」
 まるで自分のおかげだとでも言うような睦子の表情に、由梨は少し怖くなる。個人的に親しくなりすぎただろうか。睦子は誰とでも仲が良い。そんなことはないと思ってはいるが。

「今度の土曜日さ、由梨ちゃんちょうど休みだよね。合コン来ない?」
 いやいやいやいや。由梨はあらん限りの勢いで首を横に振る。
「若い子連れてきてって頼まれてて」
「ムリ」