「僕のカノジョはさ、食べないんだよね。あんまり」
 内心で少し身構え、由梨は食べながらこくこく頷く。
「ファミレスでサラダしか食べないタイプ」
 確かに。モデルみたいにシュッとしたきれいな雰囲気の女の子だった。由梨とはまったく違う。

「それで保母さんなんかやってるんだよ」
「保母さんて体力いるんじゃないの? 大丈夫?」
 思わず尋ねてしまう。
「……」
 小田は無言で、フォークを握ったままの由梨を見つめた。ちょっとやめてほしい。茶色の目を突き刺してやりたくなるじゃないか。

「由梨ちゃんは、仕事楽しい?」
 またなんなのだ? この人は。珍しく会話のキャッチボールができていたと思ったのに、またわけのわからない球を投げられ由梨は混乱する。
「仕事だし。楽しいとか関係ないと思う」
「僕はさ、楽しくやりたいと思うんだ」
 柔らかな声音の中に強(こわ)さを感じて、由梨はやっぱり身構える。
「喧嘩したり争ったりはいやだ。楽しくやりたい。みんなで仲良く楽しくやれればそれでいい」

 そうやって、適当にやったところで良いことなんかないじゃないか。そんなのは仕事じゃない。甘えなんじゃないのか。由梨は激しく思ったけれど言い返せなかった。
 意固地に口を引き結んで小田は睨むように由梨を見ている。ケンカを売ってるようにも見える。仲良く楽しく、とか言ったくせに。

 フォークを握り締めて由梨は悩む。なんて切り返せばいいのか。少なくとも小田の持論には由梨は納得できない。だけど下手な言葉を言えない気がした。縋りつかれているようにも思えて。

 逡巡して睨み合っていたら、小田の隣にいきなりどかっと白井が腰を下ろした。
「何見つめ合ってんすかっ?」
「見つめ合ってないし!」
 反射的に否定する由梨の方は見もしないで白井はがしっと小田の肩を掴む。
「なんで小田さんは由梨ちゃんをいじめるんすか」
「いじめてないよ」
 どう見ても酔ってるとしか思えない白井に対して、小田は普通に答える。

「由梨ちゃんいじめないでくださいよ」
「いじめてないって」
 だ、大丈夫か? 由梨はどきどきしながら両手でフォークを握り締めて白井の様子を窺う。やっぱり目が据わってる。片手をテーブルについて小田の方に体を屈めながら白井は言い切った。
「由梨ちゃんはバカなんだからいじめないでください!」