やっぱり断れば良かった。一度は思いもしたけれど、目的の店に着けばそんな由梨の感慨は弾け飛んだ。ビュッフェ形式で美味しそうな料理がずらりと並んでいる。既に会は始まっていて、受付で会費を払った後、好きに食べて下さいと言われた。

 喜んで! 由梨はいきなり睦子お勧めの唐揚げを皿に山盛りにしてトマトを添える。こちらもさっそくカクテルのグラスを傾け始めた睦子と並んでテーブル席に座る。
「むっちゃん食べないの?」
「まだお腹いっぱいだよー。唐揚げひとつくれる?」
「どうぞ」
 そう思って由梨はフォークをふたつ持ってきていた。ふたりでほぼ同時に唐揚げを頬張る。

「ほんとだ。おいしい」
「でしょう。バターの風味がジューシーなんだよねえ。あーお酒がススム」
 睦子はいくらでも飲めるタイプらしい。まったく羨ましい。
「由梨ちゃんみたいにたくさん食べれるのも羨ましいよ」
「たくさん飲めるかたくさん食べれるか、どっちかなのかな」
「そうかもね」

 唐揚げを口の中に放り込みながら次の料理を物色する。そうしてフロアを見渡してみると、小田と白井は社員さんたちが座っているテーブルに挨拶に行っているようだった。
「男子はタイヘンだ」
 睦子もそっちを見てシニカルに笑う。
「あたしたちは女子で良かったね。由梨ちゃん」
 そうかな。女で良かったかな。ノリで相槌を打てなくて由梨は口をもぐもぐさせたまま反応ができない。幸い睦子は気にする様子はなかった。

 また料理を取りに行き今度は少しずつ皿によそって歩く。やっぱり全ての料理を味見したい、デザートのケーキも楽しみだ。
 席に戻ると小田と白井がテーブルの向かいに座っていた。睦子は今度は薄紫の綺麗な色のカクテルを飲んでいる。
「わ、きれいな色」
「バイオレットフィズだよ。これ出してるお店ってこの辺じゃあまりないんだ」
「うん。初めて見た」
「飲んでみる?」
 グラスを渡され由梨は恐る恐る口を付ける。ふわりと花の香り、そしてとても甘い。
「甘くて飲みやすい。いい香り」
「でしょ? カウンターで作ってもらえるよ。飲みなよ」
「お酒はあんまり」

「大丈夫だよ。ちゃんと送ってあげるから」
 にこにこと他意がなさそうに小田が言う。
「ね、ほら。運転手がいるんだから」
 そういう問題じゃなくて。ふらりと白井が立ち上がったのに気を取られながら由梨は首を振る。
「ほんとにお酒弱いんだよ」
「んもう、由梨ちゃんてばカワイイ」
 なぜか横から睦子に抱きしめられる。この人はだいぶ酔っている。そして気がつく。睦子も胸が大きい。柔らかくて気持ちいい。