「地味だなあ」
「うるさい」
 母をあしらいつつも今日のお礼を言って由梨は祖母の家を出た。引き出物のお菓子などは母にあげることにする。

 祖母の家の前の細い路地を下って少し道幅の広い道路に出る。紺色の中型車が近づいてくるのが見えた。もう見慣れた小田のクルマだ。
「お待たせしました」
「こっちのセリフだよ」
 助手席には今度は睦子が座っている。相変わらず機嫌がいい。
「お店で魔王の梅酒飲ませてもらっちゃった」
 こんなにお酒が飲めるのも羨ましいかもしれない。弱くてあまり飲めない由梨はいっそ感心する。由梨は飲むとすぐに気持ちが悪くなるか眠くなってしまうのだ。

 後部座席の小田の後ろに由梨は座る。隣の白井は、いつもにも増して何を考えているのかわからない感じだった。
「今更だけど、二次会ってどこでやるの?」
 クルマが道をぐるっと回って元のメイン通りを下り始めたころ、由梨は睦子に訊いてみる。教えられた店名は知っていた。新規オープンのときに睦子との話題に上がったカジュアルレストランだ。

「イタリアンが美味しいからさ。楽しみだね。あと唐揚げが絶品だよ」
 唐揚げ! 由梨はきらんと目を光らせる。それを目にしたのか白井が少し呆れたように口元を綻ばせた。
「披露宴で食べたんですよね」
「美味しかったよー。ステーキ」
 思い出しただけで口元が緩む。
「あんなに柔らかいお肉は初めて」
 由梨のセリフに白井が何か応じかけて、固まった。由梨も「あ」と思ってしまう。ふたりで行ったステーキレストランのことを言いかけてしまったのではないだろうか。

 不自然なふたりの沈黙に睦子が不思議そうに振り返る。そこで由梨の顔をまじまじ見つめる。
「お化粧直した? カワイイ。会社にもそうやって来ればいいのに」
 普段の由梨はすっぴんだ。防塵帽やマスクで隠れてしまうのに、どうしてわざわざ時間を割いて出勤前にメイクしなければならないのか。そりゃあ若い女子たちはがっつりアイメイクを施しているが。目が疲れたときに目薬をさす由梨にはとてもできない。

「いやー、無理」
 そこはきっぱり由梨は否定する。苦笑いする睦子の横で小田がしれっと言った。
「いいよね。由梨ちゃんは何もしなくても可愛いもん」
 また余計なことを。由梨はカッとお腹の奥が熱くなるのを感じた。逆に頬からは血の気が引くのを感じる。
「そうだそうだ。由梨ちゃんはカワイイ」
 本人が返事に困るのを見越してだろうか、睦子がケタケタ笑って相槌を打ち、そのまま別の話題を出した。おかげでさわさわと落ち着かない感じはすぐに治まってくれた。