帯が苦しくて普段の半分も食べられる気がしなかったが、それでもフルコースの料理を全てたいらげた。お肉は感動的な柔らかさで、もう一枚お替りしたいほどだった。

 お酒が好きな睦子は、シャンパンの後は料理に合わせ白ワインや赤ワインを飲んでいた。
「まあまあおいしい」
 あまり飲めない由梨は、最初の乾杯の際に一口舐める程度にしておいた。そうでなければ料理がお腹に入らなかっただろう。

 披露宴が終わり、引き出物の大きな袋を持って歩きながら母親に来てもらわねばと由梨は思う。ロビーで電話をかけよう。すると睦子が得意げに言った。
「由梨ちゃん、運転手に来てもらってるからさ」
 ロビーを見渡してから睦子は手を振る。ソファの一角でそれに応えて手を上げて立ち上がったのは、小田と白井だ。事前に聞いていなかった由梨は少し驚く。どうやらふたりは二次会に呼ばれているようだ。

「おおー。久し振り」
 元同僚の子は嬉しそうに小田と白井と話している。由梨はどうすればいいのか迷って、携帯電話を握りしめたまま固まる。
「わたしは着替えなきゃならないから」
「おばあちゃんち行くんでしょ。いいじゃん小田くんのクルマ七人乗りだよ」
 言ってることがまるでわからない。睦子は酔っているのだろう。

「どこに送ればいいの?」
 こっちの話は聞いていないと思ったのに、小田が振り向く。
「……光が丘団地なんだけど」
 小田は目を丸くする。
「うちもそこだけど」
「マジで?」
 由梨が反応するより早く睦子が声をあげる。
「じゃあさ、由梨ちゃんのお着換え待ってる間、小田くんち行きたい」
「いいよ」

 話を勝手に進めるな、思っても睦子の勢いがすごくてうまく言い出せない。救いだったのは、元同僚はカレシが迎えに来たので二次会には行かずに帰るとのことだった。彼女まで一緒に行動するとなったら由梨としては居たたまれないところだったから、これにはほっとする。

「あ、待って」
 職場の係長ふたりの姿を見つけ小田はそっちに駆けていく。すぐに笑いながら戻ってきた。
「技術課の人のクルマに乗るからいいって。じゃあ行こうか」
 先に立って歩き始める小田と睦子の背中を、由梨は途方に暮れて眺める。そんな由梨の手から、白井がいきなり荷物を取り上げた。
「行きましょう」
「あ、ありがと」

 白井は、前を歩く睦子にも声をかけて荷物を持つ。
「白井くん、気が利くなあ」
 やられた、というふうな表情をする小田を、睦子がからかう。
「じゃあ、小田くんは由梨ちゃんをエスコートしないと」
「そうだね」
 ほんとに小田が振り向いたから由梨は緊張した。