「叔母さん。この子の気持ちだからもらってやって」
 母が助け舟を出してくれる。それでおばさんは包みを受け取ってくれた。由梨はほっとしてもう一度お礼を言った。

 式場に送ってもらう途中のクルマの中で、由梨は反省した。こうしてまた振袖を着れたことは嬉しいけど。
「振袖はこれで最後にするよ」
 これから晴れの場に赴くというのに、鼻先がつんとくる。至らない自分が情けなくて。
「そうだね。それがいい」
 運転席でじっと前方を見つめたまま、母親も由梨の言葉に頷いた。




 時間がぎりぎりだったのか、受付の前で待ってくれていた睦子が早く早くと由梨を手招きした。
「チャペルはこっちみたい」
 慌てて向かうと、既に新郎新婦が入場していた。そうっと新婦側の席の一番後ろに着く。
 由梨は初めてチャペルでの結婚式を見た。予想以上に荘厳で感動的だ。キリスト教徒でもないのに浸ってしまえる自分はつくづく日本人なのだな、なんて思ったりもする。

 披露宴会場はゆったりした明るい広間に百人ほどが集まっているようだった。美紀の言っていた通り、新婦側のいちばん上座の丸テーブルに席があった。
 由梨たち元同僚の女子三人と、職場上司として呼ばれた検査係の係長と組み立て係の係長。二人とも色黒の顔に礼服をまとっていて益々黒々している。
 新郎側に揃っているのが技術課の社員さんたちらしかった。席表の役職を見るとこっちより上の人たちばかりだ。

 花嫁は文句なく美しかった。もともときれいな顔立ちの子だから、由梨など話すのに気後れしてしまっていたくらいだ。白いウェディングドレス姿は神々しいほどだった。

 それぞれの上司のスピーチ、乾杯の音頭の後でようやく食事が始まる。由梨のテーブルの両係長は、新郎側の上役たちにいそいそお酌に向かった。
 前菜を食べながら由梨はふと疑問に思う。新婦は派遣会社の人間だったのに、こういうときには派遣先の企業の社員さんが上司として来てくれるのだな。「出向先の」と紹介されていた。厳密に言えば違うと思うのだが。睦子に訊いてみたい気もしたがさすがにこの場ではやめておく。

 明るいミントグリーンの総レースのドレスを着た睦子は、にこにこと嬉しそうにシャンパンを飲んでいる。髪型もメイクもばっちり決まっていて、午前中美容院に行ってきたようだった。
「由梨ちゃんね、仕事して来たんだよ」
「ええー休めば良かったのに」
 そう笑う元同僚は、胸元の開いた黒いドレスにピンクのキラキラしたショールを巻いていた。由梨は気にしたことがなかったが、彼女の胸がとても大きいことに初めて気がつく。
 当たり前だが会社にいるときとは違う。係長たちも。由梨にはそれが新鮮だった。