「結婚式ねえ。呼ぶ方は簡単だけどさ。呼ばれた方はお祝儀持ってかなきゃだしドレスは買わなきゃだし、ヘアーセットにメイクに交通費。これほど割に合わないものはないでしょ。友だちなら祝ってあげなきゃって思うけど職場のさほど親しくない人って微妙だよねえ。席も微妙に上座だったりしちゃうしさあ」
 指折り数えて美紀にあげつらわれて由梨は青ざめる。
「買い物付き合おうか?」
「うう。どうしよう」
 はっきり言ってお金はあまり使いたくない。

「振袖があるじゃん」
 母親に話すとあっさり解決した。
「着付けがタイヘンじゃあ……」
「おばさんに頼めばいいよ」
「そうそう、由梨ちゃん。大工のおじさんのおばさんがね。着物が好きで着付けが上手だから」

 祖母が電話をしてくれて、親戚のそのおばさんに振袖を着付けてもらうことになった。成人式の際に祖母が買ってくれた、赤と黒に金糸の刺繍が入った豪華な振袖だ。その親戚のおばさんのツテでB反で手に入れたのだが、由梨にとっては身に余る贈り物だ。揃えて髪飾りなども買ってあったはずだ。

 由梨は母親に頼んで髪飾りを出してもらった。祖母の鏡台を覗き込み、肩までのびた髪を上げてさしてみる。自分で毛先を巻くなどすれば美容院に行かなくてもなんとかなりそうだ。メイクも美紀に雑誌を借りてなんとかしよう。
 とりあえず目処が付いて由梨はほっとする。当日は祖母の家から式場まで母が送り迎えしてくれることになった。

「お金かからなくてよかったね、由梨ちゃん」
 にこにこと祖母が言う。
「うん」
 頷いて由梨は祖母にお礼を言った。そうは言っても、おばさんにお礼の品を用意しなければならないだろうなと思いながら。タダより高いものはないのだから。




 そうしてふたりが退社する日がきて、翌日から新しい班編成に整えるための変則的なシフトになる。勤務表を見てよく確認している由梨のところに彼女たちが手紙を持ってきた。これまでの感謝の手紙らしい。これまたびっくりして由梨は少なからず感動する。我ながら単純だと思うが仕方ない。

 中勤勤務の終了時間までの間、和やかに話しながら待っていると、こそこそといった態で作業着姿の男性が近づいてきた。見慣れない人だったがしばらくしてから由梨は気づく。バーベキューのときにアユを持ってきた塗工の小柄な社員さんだ。
 すると今日辞める寿退社でない方の子が、慌てたようにその人に近づいていった。なにか大きな包みを渡されている。プレゼントみたいだ。

 それを見て睦子は口元を緩めていたが、由梨はなんだか悪いものを見た気分になってそこを離れる。塗工のモニターを見に自動組み立て装置の出口の方に行くと、睦子が後ろからついて来た。