駐輪所から自転車を引き出しているとき、小田と白井が帰るところにかち合うこともあった。組み立て係も、常勤で自動組み立て装置の整備や改善をしているらしい。

「第五ってどんな?」
「きれいだよ。明るくて広いし。居心地はまあまあ」
「ふうん」
「ふたり仲いいね」
 白井と話していると小田に突っ込まれた。一飯の恩があるのだから当然だ。由梨が黙ると白井も黙る。小田も首を傾げてみせただけで、それ以上は何も話さずにゲートを出た所で別れた。
 ふたりで食事に行ったことを白井は誰にも話していないようだ。由梨はそのことに安堵した。




 工事が終わって戻ったものの、組み立てのフロアには何も変化はなかった。
「作業短縮化で塗工がパワーアップしたらしいよ」
「効率良くなったってこと?」
「そ。今までよりスピードが速くなって数も多くなるって」

 それは検査係も大変になるんじゃ、と心配になった由梨だったが、すぐにはそうはならなかった。工事直後の稼働が悪く前工程の塗工係がもたついて、数日間は仕事にならなかったからだ。

 そんなぐだぐだ感の中で出勤するのが嫌になってしまったのか、いざ正常にラインが動き出したころ、小田とコンビを組んでいた派遣の社員が休みがちになってしまった。一日休んで、来たかと思うとまた休んだりする。そのうち三日連続で休んでしまった。
 その度に白井が連勤で代わりに入ったり、前後の番で残業早出して対応してもらっていたが、本人の出勤状況は落ち着かない。

 連勤で白井が一緒に中勤に入った日の休憩時間、由梨はカップラーメンを分けてくれと頼まれた。以前にロッカーにストックしていると話したのを覚えていたのだろう。
 好みを訊くと、しょうゆラーメンがいいと言われたからそれを持っていく。百円玉を差し出されたが断った。前にお肉を奢ってもらったのだし。

「なんだか落ち着かないね」
 一階の給湯スペースのポットからお湯を注ぎ、一緒に食堂代わりの会議室に入りながら由梨はつぶやく。白井は疲れたようにため息をついた。
「派遣の担当さんが家まで行ってるみたいだけど」
「そっか。白井くんと同じマンションだよね」
「今日の帰り、小田さんも寄ってみるって」
「小田くんが行ってどうにかなるのかな」

 つい辛辣につぶやいてしまう。そんな由梨を見透かして、白井は割り箸を持ってラーメンの蓋を開けた。
「ほんとに体調悪いかどうかもわからんけど、小田さん責任感じてるみたいで」
 そういうところは人が良いのだ、小田は。自分はおにぎりを食べながら由梨は思い出す。
「小田くんと同い年なんだよね、あの人。そしたらわたしともタメか」