ライン停止の二週間は、機械の整備やフロアの清掃、敷地内の草取り、そして数名が他のラインに応援に出されることになった。当然のように皆は知らない場所に応援に行くことを嫌がる。

「だったら休みでいいのに」
「でも有給が使えるのは三日までだよ。派遣の担当さんに相談したけどこれが限度」
「ええー?」
「応援はぜったいヤダ」
 ああでもないこうでもないだ。見かねて由梨は睦子に申し出た。
「わたし、行ってもいいよ」
「ほんと?」
「仕事だし」
 睦子は疲れた顔でそうだよね、と小さく唸った。

 由梨が立候補すると、同い年で仲の良い彼女も手を上げてくれた。それで睦子ともうひとり、由梨と同じ日に職場に入った十九歳の子と四人で第五工場に行くことになった。

 第五工場はプラント内でいちばん新しい建物で、五階建ての四階に応援先のラインがあった。建物の中も明るくて更衣室も休憩室も広くてきれいだ。
 仕事の内容はといえば、同じ感光体ドラムの検査でも、こちらの品種は塗料の色も違うし光の反射が少なくて、いつも見ている品種の数倍見やすい。
「簡単でしょ?」
「うん」

 ただ、検査ステーションの作りはまるで違う。パネルの表示は一緒だったが、何がどうトレイが移動してくるのか仕組みがまるでわからなかった。
 どうやら由梨が普段いるラインの設備は、とても簡略化されたものであるようだ。

「というか、こっちの方がシステムは遅れてるのだけどね」
 お昼を食べながら睦子が教えてくれた。こちらのラインの検査係の勤務時間は常勤のみで、工場のチャイム通りに休憩を取る。全員が出払ってしまうのだ。
「同期化してないから。マルチに製品を貯めながら流してるんだよ」
 由梨たちの組み立てクリーンルームのフロアにも、以前はマルチカルーセルという巨大な立体倉庫があったらしい。

「AGVが走ってるとこにマルチがあってその中に一度製品を収納してたの。で、検査係が日勤で一気に流して、今度は組み立て側のマルチに製品を溜めてたの」
「はー」
「棚ずれってマルチの出庫システムのトラブルが増えて。同期化の波もあってマルチがとっぱらわれて検査係も三交代になったんだよ」
 さすがベテランの睦子である。由梨は面白く職場の歴史を聞く。

「わたしは前は第五にいたんだよ」
 同い年の彼女が言う。
「そうなんだ」
 一緒にいるメンバーが良かったから、緊張はしたものの居心地は悪くない二週間がすぎた。
 たまに帰り際に掃除組のメンバーと行き会うと、暑い中草取りをさせられて大変だと愚痴っていた。好きで残ったのだろうに。