そうやって設備の操作を覚えるのは面白かった。もともとAGV(無人搬送車)やロボットの動きを眺めるのが好きだったのだ。こうやって機械を操作するのも好きなのかもしれない。新しい自分を発見だった。
 検査ステーション周りの設備には、組み立て係の新人より詳しくなったかもしれない。自然と他の作業にも興味が出てきた。

 引継ぎが終わって残りの時間、フロアをあちこち眺めて歩いた。
 塗工のクリーンルームに続く通路の前まで行くと、扉の向こうから聞き馴れない音楽が聞こえた。AGVの電子音。いつもの『コロブチカ』ではなく『禁じられた遊び』の旋律だ。初めて聞いた由梨はびっくりする。
 しかも音の大きさからしてそこまで来ているのに、停止してしまっている感じの音量だ。

「どうしたの?」
「いつもと違う」
 近づいてきた小田に尋ねる。
「ああ」
 小田は慣れた様子で自動扉を開けて入っていく。
「いいの?」
「通路だったら大丈夫だよ」

 恐る恐る由梨も踏み込んでみる。照明の落ちた真っ暗な通路だ。左方に磁気テープの貼られた廊下が続いていて、突当りで更に左方に折れ曲がる。そこから突き出ている機械の搬出口の上部で、赤いパトライトが点灯しているのが見えた。あそこが塗工のクリーンルームへの入り口だろうか。

 塗工のAGVはといえば、悲し気な旋律を奏でながら自動扉の前のカーブの部分で停止していた。
「バッテリーがないんだよ。まずカーブを曲がれなくなるんだ」
 小田はAGVの停止ボタンを押してから、切り替えダイヤルを手動の方に捻った。それでも禁じられた遊びの悲し気な旋律は止まらない。

「はいはい。待って待って」
 笑いを含んだ声でつぶやきながら、小田はコードをはずしてAGV上のバッテリーを取り上げる。廊下の隅で充電されていたバッテリーと取り換えてAGVに載せる。
 自動に切り替え起動ボタンを押すと、コロブチカの軽快なリズムを流しながらAGVは元気良く走り出した。自動扉を開いて滑り出ていく。
「腹が減ってたってわけ」
「なるほど」