小田とコンビを組む新人も、そんな空気に当てられて大分リラックスしてしまっているようだ。元々睦子も小田も後輩にいい顔をして甘やかしてしまう質なのだ。こんな感じでいいと思われては困るのではないだろうか。

 終日社員のいない土日の勤務になるともっとひどい。休憩は交代で取るのだが、小田の順番は由梨と睦子の時間帯と重なる。煙草を吸わない由梨とは別に小田と睦子は喫煙ルームで和気あいあいとしているようだ。
 それはいい。いつまでたっても休憩から戻ってこないのが困る。

 ふたりがいないときに、検査ステーション内部のトラバーサーが、製品トレイを移動させるのにプッシャーを上げたままコンベアを空回りさせてしまったことがあった。トレイが突っかかってしまったのだ。
 すぐに手で引き寄せていれば良かったのだが、そのときには遅かった。タイムオーバーでエラー音が鳴りコンベアが停まってしまう。
 機械の常として、こういう場合は手動に切り替えリモコンでひとつひとつの動作を操作し、全てを原位置に戻してから自動稼働を再起動する。

 ベテランの睦子ならこれができるが、他の検査員女子はこういった設備の操作に関する教育はされていない。設備のトラブルがあれば組み立て係に助けを求めるよう言われている。
 だけど肝心の小田もいなくて、新人の彼はまだ検査ステーションのことまでは教えられていないようだ。残っている皆で今までの見よう見まねでやってみたが、原位置に戻っていない部分があるらしく、制御盤の原位置のランプが点灯してくれない。この緑色のランプが点かないことにはコンベアを起動することができないのだ。

「どこが戻ってないんだろう?」
「もう呼びに行こうか」
 そんなことをしていたらようやく小田が戻ってきた。
「ごめんごめん」
 ごめんじゃない。あっさり対処してくれた彼の素早い手付きを見て由梨は決心する。睦子がやっていることなら自分もできるようになろう。教えてもらうのだ。


 由梨はメモ用紙を作業着のポケットに入れて、トラブルの度に派遣の新人社員と一緒に対処の仕方を教えてもらうようになった。一度で覚えられないからメモを取る。
 やってみればさほど難しいことではない。睦子や小田がいなくても困らないようにしなければ。