夜勤の最終日、由梨は信じられない言葉を耳にした。
「休み明けの中勤から僕もそっち行くから。よろしく」
 トーンの高い声を上げる同じ班の女子たちの影に隠れ、由梨は顔を強張らせる。組み立て係に入った新人ふたりが慣れたようで、いよいよ班編成が替わるのだ。
 白井が元の班のまま新人ひとりと組み、小田がもうひとりを連れて由梨の班に移ってくるらしい。冗談じゃない。嫌な予感が当たってしまった。少し時間帯が重なるだけでも嫌なのに、ずっと一緒だなんて。

「やなんだよ。落ち着いて検査できない」
 由梨の愚痴を聞きながら美紀はアイスコーヒーのストローを回す。
「うん」
「仕事じゃん。何しに来てんのって感じ」
 学校じゃないんだから、とこぼす由梨に美紀はうんうんと頷く。
「若い男女がいるとタイヘンだ」
「あの人が調子がいいんだよ。むっちゃんも」
「ベテランふたりがそれじゃあ若い子は調子に乗るよね」
「そうだよ」
 由梨はぷりぷり頷いてコーヒーカップを持ち上げた。
「ペラペラおしゃべりするのだけはやめてほしい」
 きっと。休憩時間にも和気あいあいとするのだろうな。想像して由梨はくちびるを噛む。

「どうせなら白井くんと一緒になれれば良かったね」
 美紀ににやにやされ、それはそれでため息をつく。
「そうだなあ」
 話もするようになったし慣れてはきたが、白井は白井でやっぱり苦手だ。同世代だから上手く相手ができるという訳でもなく、同世代だから由梨は苦手だ。おじさんたちとの方がよっぽど気楽に話せる。

「派遣を増やすんでしょ? 若者が増えるってことじゃん」
「そうだよねえ」
「バカモノが増えなきゃいいねえ」
「……」
 けらけら笑う美紀を由梨は恨めしく見上げる。
「うちは良識ある大人な職場で良かった」
 美紀はしらっと言ってのけた。




 予想通りの事態だった。組み立て係も派遣社員になったおかげで、由梨の班はますます緩い空気になった。派遣先会社の社員さんたちがいる間はそれなりにきちんとやってはいたが、上の人が帰ってしまうと、少しの待ち時間の間に女子たちは検査ステーションを離れて小田のところにおしゃべりをしに行くようになった。睦子はまだ仕事の話をしているようだが、他のふたりはどうでもいいことに決まってる。