集計を終えた由梨はクリーンタイムの掃除を始める。モップを持って遠目に自動組み立て装置を眺めてみると、製品出口で白井が黙々と作業している。入り口側の制御盤パネルの前では、小田が新人たちに説明してるみたいだ。

 そこへ集計を終えたらしい睦子たちが近づいて、いつものようにおしゃべりを始めた。新人男子たちに尋問してるみたいだ。きゃいきゃいといつもより更に騒がしい。
「しゃべってないで掃除してよ」
 さすがに色黒の社員さんから注意が飛ぶ。睦子たちは調子よく謝罪しながらモップを取りに行った。

 小田は新人ふたりを製品出口に連れていき、そこでの作業をやらせ始めた。組み立て係は二人一組で作業する。出口で製品を受け取り異物の噛み込みがないかなど目視で確認してから、専用の緩衝材の型にはめ込んでコンテナボックスに納めていく。
 出口での作業は一人でもできるが機械が動いている限りここに一人付いていなければならない。別の人間が部品の補充やコンテナボックスの移動など、細々とした準備もしなければならない。
 小田と白井は普段すべての作業を交代でやっていた。小田の方が先輩だけど、白井もほとんどの仕事はできるし機械のトラブルにも対応できるようだ。

 新人ふたりに出口作業を任せた白井は、別の作業をしている。小田は相変わらず新人のそばに付いている。今日の中勤はこんな感じで動くのだろう。
「コンビが変わるってこと?」
「そだねえ。白井くんがリーダーになってもう一班。朝勤からそうできるかなあ」
 睦子たちが囁いているのを聞いて由梨はなんだか不安になる。

 クリーンタイムが終了し朝勤の由梨たちは引き上げる。階段を上っていくと、居室から出てきた検査係の係長がいつものように誘ってきた。
 ところが今日は頷いたのは睦子だけで、年下ふたりも由梨と一緒に辞退した。ふたりで用事でもあるのだろうかと思ったが違った。更衣室で着替えながら、睦子に次ぐベテランで、ここの社員と付き合っているという彼女が教えてくれた。
「なんか込み入った話がある雰囲気だったからさ。派遣の新人が来たからそのことじゃないかな。班編成とか」
 そんなことが気配でわかるのだろうか。年下とはいえさすが派遣のベテラン。何も考えてなさそうな感じなのに。由梨は内心感心する。家持の年上と付き合ってる時点で実は色々考えているのかもしれない。