連休明けの初日は朝勤で、出勤したのは由梨の班がいちばん乗りだった。信じられないほど静かなクリーンルームにエアーの音だけが響いている。

「塗工が動くのが今からだから、あがってくるのは十時くらいかな」
 それまでは検査係はまた掃除らしい。
 ところが、九時くらいに係長がやって来て精度テストをやるよう指示された。不良品のサンプルを検査して、不良の項目と合否の判定をするテストだ。

 毎回同じサンプルを使っているにも関わらず検査員は皆これを嫌がる。メンバーは気の重いため息をつきながらテスト用の解答用紙を持って検査ステーションに入る。
 形だけのテストだから点数など問題ではないが、やっぱり真剣にはなる。終わった後皆で回答を突き合わせる。由梨は良品を不良とする過剰判定がひとつあった。反省する。

「不良を流すよりいいんだけどね」
 睦子が軽い調子でフォローしてくれたが、歩留まりを気にする塗工係からは、常に過剰判定を疑われてしまうことは由梨ももう感じている。正確な判定が求められるのだ。

 奥のクリーンルームから扉を隔てて『コロブチカ』の旋律を鳴らす電子音が漏れ聞こえてくる。AGV(無人搬送車)が起動したのだ。
「回り始めはいつもとは違う不良が出たりするから何か見つけたらすぐに教えて」
 睦子に言われて由梨は緊張の面持ちで通常作業の準備を始めた。



 品質も流れも安定しなくて、いつもより気を使ったしいつもより時間を長く感じて、とても疲れた。区切りのいいところで終わりにして製品を流す。モニターを終了させ検査ステーションを出る。

 遮光カーテンを潜ろうと腰を屈めたとき、気がついた。見慣れない男性作業員が二人いる。真新しい真っ白な作業着なので目立ってる。小田が隣で何か説明しているようだ。
「派遣の新しい子たちだよ」
 しゃがんだ由梨の頭の上から睦子が教えてくれた。派遣作業員が増えるということか。その分この会社の正社員が現場を離れるということだろうか。
「ふたりとも小田くんが教育するんだ。他にいないもんね」

 事務スペースに行くと検査員の女子たちが、こそこそ騒いでいた。
「顔どんな?」
「いい感じじゃなかった?」
「おじさんじゃない? 大丈夫?」
「若い? いくつ?」
「むっちゃん知ってるでしょ」
「えーとねえ」

 由梨は話に入らず先にパソコンの前に座って集計作業を始める。新しい男子が入ったとたんにこの騒ぎだ。コロブチカのAGVが次々に製品を運んできて、受け入れ口のコンベアがいっぱいになる。
「あの、溜まってるんだけど……」
 小田に教えられ中勤メンバーは慌てて検査ステーションに向かった。