首を傾げながら小川の水面へと目をやる。浅瀬がきらきら輝いている。水は冷たいかな。手をつけてみたくなって由梨は立ち上がる。
 そこで気がついた。由梨のシャツの裾に沿ってずらっとくっつき虫がくっついている。静かだと思ったら小田がコソコソいたずらしていたのだ。

 イラっとして由梨はひとつを手に取り小田の胸元に思いっきり投げつけてやる。勢いが良すぎたから上手くくっつかず、黄緑の楕円形の実は足元に転げ落ちてしまう。
 由梨の逆襲にびっくりした様子で小田は目を丸くしている。しまった。実は短気なことがバレてしまっただろうか。

「小田くんのクルマじゃない?」
 珍しくそれまで黙っていた睦子が頭上の道路を指差した。紺色の中型車が駐車場の方にゆっくり進んでいく。
「あれー。女の子が運転してたよ? カノジョでしょ」

 睦子が興味津々の様子で道路へと上がっていく。小田は慌ててその後を追いかけた。
 由梨はどうするか決めかねたまま様子を見ていたものの、ここからでは状況がわからない。道路の方に上がってみる。
 ちょうど睦子とサッカーボールを抱えた白井が戻ってくるところだった。

「カノジョとお買い物に行くんだって」
 肩を竦めて睦子がぼやく。
「今朝もカノジョの運転で送ってきてもらったらしいよ」
 こくこく頷く白井の横で睦子は無表情につぶやく。
「仲のよろしいことで」

 そこへ紺色のクルマが引き返してきた。睦子が手を振ると脇で停まってウィンドウが下がる。
「じゃあ、お先に」
 運転席から小田が気まずそうに挨拶する。
助手席には髪の長い女の子が座っていた。しゅっとした面立ちの、きれいな雰囲気の子だ。

「じゃあねー。お疲れ」
 不自然にノリよく睦子は手を振る。
「お疲れさまっす」
 律儀に会釈する白井に合わせて由梨も会釈をしておいた。
「またね」
 走り去るクルマに向かって手を振り続けていた睦子はやれやれと伸びをする。
「あーあ。喉乾いちゃった。お茶もらってくる」

 広場に戻る睦子を見送って由梨は川の方に回れ右する。やっぱり水に触りたい。
「なにそれ」
 由梨のシャツの裾を見て白井がつぶやく。
「なんでもない」
 白井は納得いかないような顔をしていたが、子どもたちに呼ばれて仕方なさそうにまた坂道を上がっていった。