「玉子キャベツラーメンおいしいよね。わたしもよくやるよ」
「インスタントなんか食うの?」
「食う食う。カップラーメンも大好きだよ。お弁当代わりに会社でだってよく食べてるし」
「へえ?」
「スーパーで安売りのラーメン買ってきてロッカーにストックしてあるんだ」
「マジか。しっかりしてるな」
 よく食うし。余計な一言は聞かなかったことにしておく。

 やきそばを食べ終わってさすがにお腹がはち切れそうだった。ゴミ袋をもらって皆が食べ終わった紙皿や箸を回収して回っているところへ、小田と睦子が戻ってきた。
「白井くん、あっちで子どもたちとサッカーやろうよ」
 上のグラウンドで社員さんが連れてきた子どもたちと遊んでいたらしかった。
「サッカーっすか」
 お腹いっぱいで動けるのかな? 思った由梨をよそに白井は小走りに小田に駆け寄っていく。

「由梨ちゃん。向こうにきれいな川があるよ」
 由梨は睦子と一緒に車道の向こう側の川の方に下りてみた。
岩場のごつごつした渓流で睦子の言う通り水が透き通っている。せせらぎが心地いい。
「天気が良くてよかったね」
「うん」
 来て良かった。由梨は心の中で誘ってくれた睦子にお礼を言う。

 まったりしすぎて眠気を感じていると、すぐ上で子どもたちの喚声があがった。くっつき虫の投げ合いっこが始まったらしい。黄緑色の楕円形の実にトゲトゲが付いていて、服にくっつくやつだ。

 標的にされた小田がこっちに逃げてくる。女の子は特に容赦がないようだ。
「ストップストップ」
 斜面を下りてぜいぜい言いながら小田は肩で息をついた。
「疲れたから休憩」
 子どもたちは不満そうにしながらグラウンドの方に走って戻っていった。由梨は気がついたことがあって小田に尋ねる。

「今日初めて会った子たち?」
「そうだよ」
「もう名前覚えたの?」
 あんなに結構な人数の。
「うん。だって」
 小田は瞬きして微笑んだ。
「子どもって名前を呼んであげると喜ぶでしょ?」

 そうか。その原理で職場の女の子たちも名前で呼ばれるのだろうか。ふと思って由梨は小田の顔をまじまじと見る。
 こんな顔をしてたのだな。思ったよりヘンな顔だ。どうして睦子を始め女子たちは彼がお気に入りなのだろう。よくわからない。