「由梨ちゃんカレシいないんだっけ?」
「うん」
「欲しくない?」
「いやー。メンドクサイ」
「わかるわかる。ワタシだってたまにひとりに戻りたいなーって思っちゃうもん」
「ほんとに?」
「話したことなかったっけ? 高校のときから付き合ってた男と別れてすぐ、ダンナと付き合い始めちゃってさ、もうちょっと間あければ良かったなって」
「そしたらダンナさんにはなってないかも」
「ああ、そうか」

 女の子の会話はとりとめがない。やかましいトーンではなく、こそこそと語られる自慢話でない体験談は、由梨も楽しく聞ける。
 ぼそぼそと語り合っていたら喫煙室からがやがやと皆が出てきた。

「さ、また掃除だ」
「うん」
 突っ伏している他の子たちも体を起こして立ち上がる。由梨も椅子を引く。背後に人がいるのに気づかなかった。ぶつかる。
「ごめんなさいっ」
「あ、大丈夫」
 小田だった。由梨に手を振ってみせてから後ろのテーブルに伏せている白井の肩を揺する。

「戻るよ」
「……はい」
 後ろにいたのか。やましいことはないけれど話を聞かれていたのかと気になってしまう。
「寝てたの?」
「はい」
 階段を下りながら白井はあくびをかみ殺して小田に答えている。由梨の隣で一緒に話していた彼女も苦笑いしていた。



 クリーンルームに戻り、今度は床のトラテープの貼り換えを始める。床にしゃがんで黒と黄色のビニールテープを黙々と剝がしていると睦子が寄ってきた。
「ねえ、由梨ちゃん」
「はい」
「連休中にね、組み立てと塗工でバーベキューをやるんだって。女の子たちも来てもいいよって」
「バーベキューですか」
 お肉は魅力的だ。

「来るならお金はいらないよって」
 しかもタダ。しかし世間では、タダより高いものはない、ともいう。
「私は行くよ。由梨ちゃんも行こうよ」
「でもですね」
「でもも何もうちの班は強制参加」
「ふたりも来るって?」
「もちろん」
 あのふたりに限らず調子を合わせるのが上手い子たちは、今日は更に声のトーンを上げておじさん社員たちの相手をしている。由梨にはできない芸当だ。けれどお肉に引かれるのも事実で。
「じゃあ……」
 どうせデートの予定もないのだし。