「あー。やだなー、何やらされるんだろう」
「頑張ってね」
 ぼやく常勤メンバーに同情しながら夜勤のメンバーが帰っていく。入れ違いに睦子が入ってきてその後ろから係長がやって来る。総勢十二名の女子作業員の前に立つ。いつもは行われない朝礼が始まる。

 本日の作業内容として、フロア全体の念入りな清掃や床のトラテープの貼り換えなどを指示される。
 最後に指差呼称を促された睦子が、いやいや人差し指を伸ばし少し考えた後、声を張り上げた。
「AGV、注意ヨシ!」

 それぞれモップや雑巾を持って散らばったものの、自然と仲が良い者同士で固まっていく。やはり学校と変わらない。
 由梨は一人でフロアの端から端までを順々に拭いていく。
「頑張りすぎると、やることなくなっちゃうからね」
 同い年の同僚がこそこそと囁きかけてきたから、由梨は笑って頷く。それくらいはわきまえている。手持無沙汰になるのは嫌だ。
 床の升目に合わせてモップを押しつけ歩いていく。午前中の休憩までの時間はそうやってやりすごした。

 組み立て係の社員たちがぞろぞろ動き出したのを見た睦子が、皆に呼びかける。
「休憩行こうか」
 休憩室も込み合っていたがほとんどの社員は喫煙室に行ってしまうので、自販機の前の丸テーブルはまだ空いていた。
 由梨は煙草を吸わない同僚たちと一緒に座る。
「眠いね」
「うん」
 ひとりがテーブルに突っ伏せば皆がそれに倣う。もちろん由梨も。喫煙室はがやがやとうるさかったが壁一枚隔てたこちら側は静かだ。

 一瞬完全に意識が途絶えて、由梨ははっと目を覚ます。壁の時計を見ると二十分もすぎていて慌てたが、他の皆はまだのんびりしている。
「平気だよ。こういう日には社員さんも長く休憩取るから」
 携帯をいじりながら同い年の同僚が教えてくれる。
「そっか……」
 頬杖をついて由梨は彼女の携帯にぶら下がっているストラップを眺めた。ビーズをつなげて作られた何かのキャラクターのようで、キラキラしている。

「由梨ちゃん、連休はどっか行く?」
「まっったく予定がないよ」
「うちも。ダンナも連休だけど、お金ないからなー。日帰りでもいいからでかけたいなあ」
 少しふくよかで話し方も優し気な彼女とは、由梨も話しやすい。既婚者だと知ったときには驚いた。子どもがまだのせいか、雰囲気はシングルのそれとまるで変わらない。ダンナさまとも、まだまだ恋人同士のノリのようだ。