残った由梨に睦子が言った。
「あの子ね、ここの社員と付き合ってるんだよ。技術課の人でバツイチだけどお金持ってる。家もあるし」
 だから由梨の感想に微妙な顔をしたのか。
「四十のおっさんが若い子にメロメロみたいでさ」
 綺麗な子だからそれもわかるなと由梨は素直に思ったが、睦子は意地悪な表情で唇を曲げた。
「多分結婚するな、あれは。あの子働きたくないって言ってるし」

 それから由梨の顔を見てなぜかすまなそうな顔をした。
「みんな知ってるよ。知らないの由梨ちゃんだけだと思って」
「……」
 知らないと何か不都合なことでもあるのだろうか。相手の社員の名前を聞いたところで由梨には誰だかわからない。教えてもらっていないことで仲間外れにされているとも思わない。仕事のことを知らされていないのであれば問題だが。
 なんだか面倒になって、由梨は硬い表情のまま頷いておいた。




 夜勤はそれで終了で、二日間の休みをだらだらしてすごした。カレンダーはもうすぐゴールデンウィークだけど、由梨には特に予定はない。美紀が何回かご飯に誘ってくれるだろうが。

 中勤の初日、睦子の予想通りに明後日は常勤での勤務になると知らされた。夜十時に帰宅して翌朝八時半には出勤というスケジュールだ。
 こういうことは交代勤務ではよくあることらしい。みな文句を言ってはいたが慣れているようだ。

 気が重い。常勤前日の夜はよく眠れなかった。案の定翌朝には寝坊しそうになった。危ない。
 菓子パンを頬張りながらお弁当のおにぎりを作って慌てて家を出る。この時間帯は道も混雑するから早めに出ようと考えていたのに。

 出勤の光景がいつもとまるで違う。こんなにたくさん人がいたのかと驚くほど正門ゲートが混雑している。自転車置き場でも気を使う。
「おはよう」
 玄関で外観検査係の何人かと一緒になった。
 更衣室も混雑していて戸惑った。他所の部署の女性たちも身支度している。

「何やらされるんだろうね」
「床磨きだけはやだなー」
「精度テストの方がもっとやだよ」
 口々に言いながら階段を下りる同僚たちと一緒に、クリーンルームに向かう。自動組み立て装置はまだ動いていたが検査は既に終了しているようだった。
「おはよー」
 夜勤のメンバーが眠そうに引き継ぎしてくれる。通常業務は終わっているようだ。