生産予定表を見ていて気がついた。ゴールデンウィーク前の稼働日は生産数がゼロになっている。
「調整日だからラインは動かないよ。夜勤明け以外の全員が常勤で出勤になると思うよ」
 睦子がへろっと説明してくれたが。そんな大事なことはもっと前に言ってほしかった。

 由梨は常勤がいちばん嫌いだ。ラインが動かないならいったい何をするというのか。
「掃除とか掃除とか掃除とか」
「時間が長く感じるんだよねー」
 年下ふたりも気怠くため息をつく。

 この日は夜勤時間の残り三十分ほどで、前工程からの製品の供給が停まってしまった。トラブルがあったらしい。
 先日教えてもらった塗工係の進捗モニターで確認すると、出口部分に空白ができていた。製品が流れてきていない。次の緑色まで時間にすると一時間ほどか。

「停まってるね。追いついたらこっちも締めるから終わりにしなよ」
「そうですね」
 組み立て係の社員と睦子が話して、あとは朝勤に引き継ぐことになった。それで残りの三十分ほどを事務スペースでおしゃべりしながら時間を潰しているのだ。もちろん作業日報では、この時間には掃除をやっていることにしてある。

「連休、旅行とか行く?」
「まだなんにも言われてない」
「うちもどっか行きたいけどなー。言ってみようかなあ」
「いいなー。ラブラブ」
 他の三人の会話には入らずに、由梨は組み立て係の夜勤の社員たちが点検作業している様子を眺めていた。
 手動のリモコンでロボットを動かし、関節の動きやツメのチャックの開閉を確かめているようだ。面白そうだ。

「誕生日何もらったんだっけ?」
「コーチのショルダー」
「いいなあ。ねえ、由梨ちゃん?」
 睦子がいきなり由梨に振ってくる。
「コーチのバッグなら欲しいよねえ」
「あ、うん……」
 確かに。ブランド物に興味のない由梨だが、コーチの小振りのショルダーなどは可愛いと思う。
「カレが頑張って買ってくれたんなら気持ちが嬉しいよね」
 彼氏にバッグをもらったという子に向かって言うと、彼女は反応に困るような表情になった。何かおかしなことを言ってしまったのだろうか。

 自動組み立て装置が動いていないと静かだから、クリーンルームの扉の開閉音が響く。
「あれ? 停まってる?」
 小田と白井だ。このふたりは出勤してくるのがいつも早い。
「塗工がね。さっきから動いてないよ」
 小田と白井は夜勤の社員に確認した後、部品の補充作業を始めた。組み立て係は忙しいのだ。
 座って待っているのに飽きたのか、年下ふたりは小田の方に行ってしまった。