マンションの駐車場には昼間だからか駐車している車は二台しかない。どちらも軽自動車だ。
 そういえば白井はどうやって通勤しているのだろう。こんなに近くに住んでいることも知らなかったのに、向こうは由梨のことを知っていた。それも睦子のおしゃべりのせいで。
 気が滅入ってしまって由梨は重く息をつく。

 ドアを開け閉めする音が響いて白井が階段を下りてきた。
「これでいいだろ」
 半分に切ったらしいキャベツは新聞紙で包まれていた。てっきりビニール袋にでも突っ込むか、最悪そのまま持ってくるかと思ったのに。
「よく知ってるね」
「キャベツは新聞紙に包むんだって掃除のおばさんが」

 誰も彼もおしゃべりだ。由梨は苦笑いして準備しておいた百円玉を白井に差し出す。
「サンキュ」
「こちらこそありがとう。中勤で忙しいのに」
「まだ時間あるから」
「じゃあ」
 ぎこちなく由梨が別れの挨拶をすると白井は無言で手を上げた。

 自転車を引いて路地を進み交差点の左右を窺う。ガードレールの内側の歩道を歩いている人はいない。左手に行けばいつも使っている大通りに出る。
 確認して自転車に乗る。ペダルに足をのせる前に振り返ってみる。

 マンションの前から白井がまだこっちを見ていた。道に迷わないか心配だったのだろうか。由梨は小さく手を振る。それに対して白井はこっくり頷いたように見えた。




「ぷっ。あんたそれでホイコーローは?」
「明日のお昼とお弁当にする」
 食べ放題の焼き肉店で豪快に肉を焼きつつ、由梨は美紀に昼間の出来事を話した。
 カルビやハラミは交ってしまってどれがどれやらわからない。かまわずまとめて頬張る。美味しい。
「しあわせだ」
 これでまた頑張れる。

「色気がないなあ」
「何がさ」
 自分も肉を取り上げながら美紀はにやりとする。
「ホイコーロー。おすそ分けとかしないの?」
「やだよ」
「そういうことしないから彼氏もできない」
「おかんみたいなこと言わないでくださいい」

「白井くんてイケメン?」
「よく見てないからわからないよ」
「つまんない」
「美紀ちゃんのつまる話はないの?」
「ないない。なんもないー。送ってあげるからさ、ホイコーロー届けにいこうよ。夜食にどうぞって」
「酔ってるの?」
 飲んでないのに。由梨が取り合わずにいると、美紀は肩を竦めて肉に集中しだした。さすが長年の友人は引き際を心得ている。