いつものように弟の部屋に遊びに来ていたタケルに、いつものようにお茶を出し、いつものように世間話をしていたところだった。ちなみに当の美紀の弟は、テレビの前でヘッドホンをつけてシューティングゲームに興じている。

「だってさ、カノジョを友だちに紹介しない男は微妙って言うじゃん。二股かけてたり浮気したり。そうでなくとも、友人に紹介するのが恥ずかしいようなカノジョなのかよって感じじゃん」
「親には会わせたんでしょう。そっちのがよっぽどリキ入ってますよ」
「親と友だちは違うじゃん」
 ムキになって美紀は反論する。

「タイプの違いもありますよ」
 思わず触りたくなるようなすべすべの頬にまた笑みを浮かべ、タケルはカップとソーサーをテーブルに置く。
「彼女を見せびらかして喜ぶタイプか、そういうのをカッコ悪いと思うのか。彼女の前でデレデレしてる顔を見られるのは恥ずかしいって奴、けっこう多いと思いますよ」

 言われて美紀は、高校時代のことを思い出す。由梨の手作り弁当を突き返したバスケ部の男子。思い出しただけでムカムカする。

「聞いた感じ、お友だちの彼氏さんは、お友だちを尊重してくれてるのじゃないですか? 大人なんだと思いますよ」
 まるで勝手に腹を立ててる自分がコドモみたいな言い方じゃないか。思いつつ、美紀はつぶやきを落としてしまう。
「お弁当……」
「え?」
「付き合い始めたばかりのカノジョに、お弁当を作ってもらったら、タケルくんは、みんなの前でちゃんと食べる?」

 きょとんとして迷う様子もなくタケルは頷く。
「当たり前じゃないですか」
「そ、そうだよね」
 彼の返事に満足する美紀に向かって、タケルはにっこりと微笑む。
「お姉さんが作ってくれたお弁当なら、僕は見せびらかしまくって食べますよ」
「……っ」

 からかわれた。頬が熱くなって美紀は慌てて立ち上がる。膝が弟の背中にあたる。
「いてーよ、ねーちゃん」
「じゃまッ」
 蹴り飛ばす勢いで弟の部屋を出る。ドアが閉まる間際、なんだよーと弟がぼやく声が聞こえた。

 あんな高校生男子にからかわれたりして恥ずかしい。少し腹立たしい気持ちになりながらも階段を下りる美紀の足取りは軽い。そのうち本当に、お弁当なんて作ってしまいそう。