はーっとわざとらしく美紀は肩を落とす。そんな美紀の向かいで、由梨はのほほんとまたコーヒーを飲み干し、またお代わりをしにドリンクバーに行ってしまった。

「白井くんさあ、由梨を誘ったりしないわけ?」
「へ?」
「練習見にきてよ、とか。せっかくお互い休みなのに」
「だって、由梨ちゃんはサルなんか興味ないっすよね」
「まあ。そりゃあ、そうだろうけど。でも、心配だよ。そんな、女の子がいるところに遊びに行かれたらさ」
「へ?」
「由梨の見てないとこで他の女の子と仲良くしようとしてない?」
「……んなわけないじゃないですか!?」

「ど、どしたの、大きい声出して」
 両手にコーヒーのカップとコーラのグラスを持って由梨が戻ってくる。
「由梨は一緒に行かなくていいの? サルの練習」
「え、なんで? わたしが行ってどうするの?」
 いっそ白井に同情したくなるほど清々しい表情で由梨は即答する。
「いや。だってさあ……」

 どんなにサバサバしているふうでも、いざ彼氏ができるとべったり一緒について歩くようになる。実際そういう女友だちもいるから、由梨だってそうならないとは限らない。美紀はそう危惧していたのだが。

「明日は美紀ちゃんと初詣って決まってるんだし」
「う、うん……。でも、心配じゃない? 女子マネージャーがいるんだってよ」
「そうなの? 部活みたいだね」
 にこにこと由梨は隣の白井を見上げる。
「あのさあ、由梨。だったら自分だってマネージャーやろうとか思わない?」
「え、やだよ。そういうの、わたし向いてないし」

 どこまでもマイペースな由梨に美紀は頭を抱えそうになる。
「それでいいっすよ。オレの趣味に無理に付き合ってもらわなくても」
 突き放しているわけではなく、穏やかに白井は言う。
「由梨ちゃんには由梨ちゃんの付き合いがあるわけだし」
 なんだ。急に余裕ぶって。ふんと美紀はまた内心で鼻を鳴らした。




「それって、お姉さんはどっちに怒ってるのかわからないですね」
 くすりと笑って、弟の友人であるタケルくんはティーカップを持ち上げる。
「お友だちをその彼氏さんに取られるのが嫌なわけですよね。でも、お友だちをないがしろにされるのも気に入らない」

 その通り。美紀はお盆を抱えたまま、目を見開く。やっぱりこの子は話が分かるなあ、と美紀は感心する。