翌日には由梨が頑張る番だった。珍しくスカートをはいた由梨は白井の実家のリビングに通され、かちんこちんになって正座していた。おせち料理を勧められたけど、とても喉を通る気がしない。

 白井のお父さんとお兄さんを前にひたすら固くなっていると、白井の母親が揚げたての唐揚げを持ってきてくれた。皿に山盛りになったそれを目にした途端、由梨のお腹がぐううっと鳴る。
 恥ずかしさに涙が出そうな由梨の取り皿に、白井の母親が笑いながら唐揚げを取り分けてくれる。熱々にスパイスの香り、さっくりとした食感の後の肉のジューシーさ。
「美味しいです」
 緊張も忘れて笑顔になると、白井のお母さんはにこにこと別の料理も取り分けてくれた。

 餌付けされた気分で白井の家を後にする。
「泊まらなくていいの?」
「やだよ。せっかく一緒の休みなのにもったいない」
 交代勤務の仕事をしている由梨と白井は、普段は休みが合わない。こんなに何日も一緒にいられるのは初めてのことだ。この日の夜も由梨はそのまま白井の部屋へと行ってしまった。

 コンビニに寄って買ったアイスを熱風が出てくるヒーターの前で食べようとしていたら、由梨の携帯電話が鳴った。メールの着信音だ。
「あ、美紀ちゃん」
 弾んだ声をあげて由梨は受信ボックスを開く。リモコンでテレビをつけながら白井は微妙に由梨を気にする。
「どっか行こうって?」

 こうしてふたりでいるときに、由梨の親友である美紀から誘いがくるのはよくあることだ。要件によっては、由梨は白井を置いて美紀に会いにいったりもする。
「うん……。あのね、明日ヒマなら、彼も一緒にご飯行かないかって。三人で」
「オレも!?」
 母親との対面は頼む前から引き受けてくれたくせに、なぜが白井は頬を引きつらせている。

「うん。そろそろちゃんと紹介してって。……ダメ?」
 なぜか怯えた様子の白井を、由梨は上目遣いで窺う。
「よ、よし。オレも男だ」
 なぜか悲愴な表情で、白井はそれでもしっかりと頷いたのだった。