昼休憩の際には、食堂代わりに給湯スペースの奥の小さな会議室を使わせてもらえる。そこで睦子とふたりで食事する。
 話好きの睦子は昨日の休みにしたことを具(つぶさ)に由梨に教えてくれる。面白く感じる部分もあるし、何が言いたいのだろうと首を傾げる箇所もある。だけど一方的にしゃべってくれるからこちらが話さなくてすむのは楽だ。

 食事の後、煙草を吸いに行く睦子を見送って由梨は長椅子に上半身だけ横たえる。念のため携帯でアラームをかけてうとうとする。

 いつもだったら少し寝入ればすっきりするのだが、今日はそうはいかなかった。眠い。朝勤の作業自体はあと一時間ほどで終わる。あと少しの辛抱だ。
 由梨は最後のガムを口に入れた。




 その日は自宅に帰るなり畳の上にごろ寝して眠ってしまった。五時の時報のチャイムで目が覚めた。
 まだ眠りたい気がしたがこれ以上昼寝したらまた夜に眠れなくなってしまう。どうにか起き上がってテレビをつけて眠気を覚ます。

 ぼんやりしたまま気がつくと、時計が六時をまわっていて慌てて食事の準備をする。残り物のご飯でチャーハンを作って明日の弁当用と今食べる分に分ける。
 チャーハンを食べた後、甘いものが欲しくてチョコレートを食べながらコーヒーを飲む。テレビを見ながらまた畳に寝そべりそうになって、自分に喝を入れる。
 もう寝る準備をしてしまおうと早々にシャワーを浴びて布団を敷く。



 作戦が功を奏して早寝早起きに成功した。翌日は比較的気分が良く出勤することができた。
 通り道にある八重桜はだいぶ散ってしまっていた。車道の方まで花びらが舞っている。

 今日も年下のふたりの方が早く来ていた。やっぱり早々にクリーンルームに入って小田とおしゃべりしている。
 由梨はそれを横目に検査係の夜勤メンバーと挨拶をし仕事の準備を始める。『コロブチカ』のメロディーが微かに聞こえてくる中、遅刻ギリギリで睦子が飛び込んでくる。入れ違いに夜勤メンバーが引き上げていく。
「やっと休みだね」
「ほんとだよ」
 疲れ切った表情でクリーンルームを出ていく。

 今日はそのすぐ後に小田と白井もやって来た。
「今日はすっきりした顔してるね」
 小田が話しかけてくる。目しか見えないが瞳が和んでいるのがわかる。由梨は昨日のガムのお礼を言った。
「効果抜群だったでしょ?」
 笑っているのがわかる。由梨は真面目に素直に頷いた。
「強烈だった」