「そろそろ戻ろうか」


街を回りながら話しているうちに、いつの間にか橋のところに戻ってきていた。
やっぱり、ここは渡月橋とよく似ている。


「凜花、見てごらん」

「わぁっ……!」


凜花の肩を引き寄せた聖が、凜花の体をくるりと反転させる。
彼に手によって振り向く形になった凜花は、視界に飛び込んできた景色に感嘆の声を上げた。


「綺麗……」


大きな夕日が見え、川が夕焼けに染まっていた。
オレンジ色が差す街は、昼間とは違った美しさがあった。


天界の空は下界となにも変わらない。
昼間は青く、日が暮れると藍色に、太陽や月、星だって見える。
けれど、今目の前に広がっている夕日は、天界に来てから見た中で一番綺麗だった。


「凜花に贈り物があるんだ」

「え?」

「気に入ってくれるといいんだが」


聖が着物の袖口に手を差し入れたかと思うと、かんざしが出てきた。


「可愛い……凜の花だ」

「凜花に似合うと思ったんだ」


桜火がお団子に結ってくれた髪には、鈴飾りのついたかんざしが挿してある。彼がそれを取り、凜の花のかんざしを挿した。


「やっぱり、よく似合う」


聖が幸せそうに微笑むと、凜花の胸の奥ときゅうっと戦慄いた。


「私……こんなことしてもらうのは初めてです……。こんな風にお出かけしたり、みんなでおいしいものを食べたり、贈り物をもらったり……。こんなの、私にはもったいなくて……」

「凜花は苦労してきたんだな」


そう言われて、凜花は困惑と喜びでどうすればいいのかわからなかった。そんな凜花の姿に、彼の瞳が悲しげに揺れる。


「だが、そんな風に思う必要はない」


けれど、その双眸はすぐに力強い意思を浮かべた。


「凜花は俺の大切なつがいだ。贈り物も愛情も、これからいくらでも捧げよう」


贈り物なんて別にいらない。
ただ、ずっと誰かに必要とされたかった凜花にとって、愛情はなによりも欲していたものかもしれない。


自分の気持ちを上手く表現できないけれど、聖の傍にいたい……と思う。
彼の笑顔をずっと見ていたい……と。


今日一日で、聖との心の距離が近づいた気がしたからなのかもしれない。
まだ芽生えた感情の名前も知らないのに、凜花は彼に対して確かにそんな風に感じていた。