凜花以外でロッカーの鍵を管理しているのは、所長だ。
まさかとは思ったが、制服を見せたときの彼の顔は驚きでいっぱいだった。そのため、犯人ということはないだろう。


そもそも、凜花にはこんなことをする人物に心当たりがあった。
もちろん、所長以外に……という意味で。


ただ、証拠はなく、本人に話しても知らないふりをするのはわかっている。
誰ひとり味方がいない状況では、自分が不利になるのも目に見えていた。
結局、凜花はシャツ代を支払い、新しいものを購入した。
さらに二週間後、今度は制服のスカートがマジックでグチャグチャにされているなんて思いもせずに……。


シャツよりも高価なスカートを弁償すれば、凜花の生活は一気に苦しくなる。
普段から無駄遣いはしないが、月々の貯金は微々たるもの。全財産だってたいしたことはない。そこから補填するとなれば、〝痛い出費〟では済まされない。
シャツのときと同じように訴えたが、故意にスカートを汚したのは明らかで、所長の返答は二週間前となんら変わらなかった。
以来、シミ取り剤を持ち歩くようになったのだが、はっきり言ってこの程度のことでは予防にも解決にもならない。


(よかった……。取れた……)


それでも、シャツにシミがつかなかったことに安堵する。
濡れたシャツをタオルで挟んで水気を吸い取るようにすれば、まだ湿っているが着られないことはなかった。


(こんなこと、いつまで続くんだろ……)


考え出すと気が重いが、今はデスクに戻るしかない。
昼休憩はあと十五分しかなく、コーヒーに浸されたお弁当を片付けなくてはいけないのだから。