凜花が仕事を辞めてから五日が経った。


聖から屋敷内では自由にしていていいと言われているが、外に出ることは許されていない。
理由はわからないが、右も左もわからない場所では言う通りするしかなかった。
とはいえ、仕事を辞める前の二日間を入れてこの一週間、凜花は下界に戻ったときしか外に出ていない。


これまで、学生時代にはバイトに勤しみ、社会人になってからもずっと働き詰めだった。休日には家にいることも多かったが、こんな風に何日も休んだ経験はない。
そんな日常から一変した今、毎日ただ屋敷の中で時間を消費するのは手持ち無沙汰で仕方がなかった。
しかも、身の回りの世話は桜火がしてくれるため、本当にすることがない。
家事でもなんでもいいからさせてほしいと言ってみたが、聖にお願いする前に玄信や桜火に猛反対された。


元来、凜花はじっとしているのが得意な方ではない。
ハヤブサ便は人手が少ないわりに休みはもらえていたが、学生時代からバイト漬けだったせいもあって、社畜生活が身についていた。


今させてもらえることと言えば、屋敷や敷地内を回るくらい。
広い屋敷は一日では回り切れず、二日かけて探検した。庭はさらに広く、未だに一番端まで見られていない。
よく敷地面積を東京ドームで例えたりするが、いったい何個分なんだろうと考えたところで答えはわからなかった。
そんな風に過ごした四日間は、意外と退屈せずに済んだ。


ただ、凜花が動けば必ず桜火を始め、蘭丸と菊丸もついてくる。
部屋の中ではともかく、どこへ行くにも護衛代わりに三人が傍にいる。そのため、さすがに申し訳なくなって、今日は朝からずっと部屋の中にいた。


(なんだかニートみたいな生活だな……。今日って何曜日だっけ?)


天界には曜日という概念はないらしく、そろそろ曜日の感覚がなくなりそうだった。
こんな生活をしていたらダメ人間になってしまいそうで怖い。
天界にいることは一応納得したが、せめて仕事くらいはしたい。
下界のようにお金がもらえるのかはわからないが、天界にも通貨に代わるものはあるだろう。
金銭があれば、少しは自由になれるかもしれない。


(仕事は難しくてもバイトってできないのかな?)


そんな風に思い至り、凜花は聖が帰宅したら直談判することに決めた。
ところが、この日彼が帰ってくることはなく、直談判どころか話す機会すらなかったのだった。