先生はそう言うと、屋上の片隅、そこに影が出来るのだが、そこに置かれた水槽に駆け寄った。
 一つ小さな水槽の中には「ベタ」と呼ばれる魚が綺麗な尾をたゆたわせて泳いでいる。
 その横には少し大きな水槽に水草が何本か入っている。メダカが五匹泳いでいたはずだが、私の位置からは見えない。

「ここに置いとけばさ、死ぬ時まで青空を拝めるだろ」とこの間言っていた。地球滅亡が発表された翌日のこと。

 先生はまた鉄格子の方に戻ってくると「ああ、悪い悪い。えっと、何の話だっけ?」と何もないところに笑いかけた。私はその反対に腰掛けて、彼一人が談笑する。
 これが日常だ。

 地球滅亡が公表されたのは、今からちょうど一か月前の終業式の日だった。地球はその日、総理大臣から終焉を告げられる。終業式を終えたホームルーム、テレビを見るよう促す緊急放送が校舎の中で流れ、私たち生徒と担任は学校でその事を知る。

 テレビを見ても詳しいことはよく分からなかったが、かいつまんでこの人が教えてくれた。日本も、外国も、何もしなかった訳じゃない。し尽くした後だった、宇宙にはまだ移住出来る星がないそうで、俺たちは終焉のその日まで黙って待っているしかない、と。