夏休みの残り半分はひたすら勉強に費やした。予定していた自分らしい生活に戻り、郁子は勉強に没頭した。これといった趣味を持たない彼女には、それ以外に時間を消費する術がなかった。

 新学期が始まり学校で顔を合わせた修司は、まるで以前からの友人のように郁子を扱った。顔を合わせれば話をする。冗談を言う。ちょっと仲の良いクラスメートといった扱いだ。

 ふたりが夏休みの短い間付き合っていたことを知らない同級生たちは不審げな顔をしていた。別れたことがわかったのか、担任もとりたてて何も言ってはこなかった。

 一学期とは少しだけ違う二学期が始まった。
 達也や朱美たちも、会えば一言二言郁子に話しかけてくれていた。

「あのさ。話あんだけど、いい?」
 ある日朱美に呼び出された。
「あたしさ。いま修司と付き合ってんだ」
 学校の近くの児童公園でアイスを食べながら朱美は言った。
「郁子には言っておこうと思って」
 そこで少し黙ってから、朱美は言いにくそうに口を開いた。

「ねえ、郁子。ヘンなこと聞くけどさ、あんたと付き合ってるときも、修司はあんな感じだった?」
「あんなって」
「だからさあ、なんていうんだろう」
 朱美はくしゃくしゃと髪をかき乱しながら、
「何考えてんのかわかんないような、わけのわかんない感じだよ」
 朱美の言うことの方がわけがわからなくて、郁子は眉を顰めた。

「なあに、それ?」
「なかったんだ。そういう感じ」
「うん……」
 ふーんとまた髪をかき上げて朱美は唸った。何か言おうか言うまいか、迷っているような表情だ。
 聞くのが怖い気もしたが郁子は思い切って催促した。
「朱美ちゃん、言って」

「……あのね、あたしも最近知ったんだけどさ」
 朱美は戸惑いがちに話し始めた。
「修司には、ずっと前から好きな人がいるんだって」
「……」
「なんでも、その人はもうどうにもならない相手で、でも修司はあきらめられないでいるんだって。だからとっかえひっかえいろんな女の子と付き合ったりしてるんだって。そういうウワサ」

 返事のしようがなくて郁子は黙っていた。
 そうして長いこと経ってからようやく、そうなの、と一言だけ相槌を打った。