ふたりとも郁子と修司は一緒に居ない方が良いのだと忠告していた。それはそうだ。あんなことをしでかしたのだから。でも、それならどうして自分は修司を好きになったのだろう。

 ――修司になんか転ばなくても……。
 その通りかもしれないけれど、郁子にはわからない。
 ――けれどあまり感心しないな。よく考えてみろ。
 彼の何がいけなくて、そんなふうに言われなければならないのだろう。それともいけないのは自分の方なのかもしれない。そう思って郁子は泣きたくなる。

 子どもの頃から郁子をわかって、手を伸ばせば助けてくれる人がそばにいるのに、心はそっちに向かわない。あんなにあんなに優しくしてもらっているのに。感謝しているのに。好かれていることも感じているのに。
 なのに修司のことばかり思い出してしまう。きっと自分が薄情だからだ。恩知らずだからなんだ。目尻を伝って涙が耳元を濡らす。

 そのまま朝を迎えてしまい検温のときには微熱があると言われた。周りが明るくなると気持ちはだいぶ落ち着いて、午前中はうとうとしてすごした。それでも鏡を見ると目がはれぼったい。

 郁子は午後の面会時間になるころに担当のスタッフに一言断ってから外に出た。
「お散歩なら聡くんが来てからにすれば?」
「すぐ戻るから……」
 嘘だ。聡と顔が合わせづらいから逃げ出すのだから。

 今度はきちんと運動靴に履き替えて来たので快適だった。天気雨が降りはしたが晴天だった昨日と一転し、今日は真っ白な薄曇りの空模様だ。空気もじめっとして肌にまとわりつく感じがする。
 散歩道への入り口の垣根に行くと、そこから見えるベンチには今日は誰もいなかった。郁子は反対方向へ続く小道を進んでみることにした。

 緑の生垣の反対側はあじさいが多かった。よく見るひとかたまりが大きなものや、小さな花が周りに飛び出て咲いているもの、色々な種類があった。あじさい以外にも別の花が咲いていたが、郁子に名前がわかるのはあじさいくらいだ。

 生垣が折れ曲がったところがもう行き止まりで、そちら側に開けた場所には、そこだけやけに洋風な丸い花壇があった。近くにベンチが置いてある。郁子はベンチに座って一休みしながら花壇を眺めた。