心配なんだ。つぶやいて達也は燃えカスになった花火を放り投げた。郁子は黙ってそれを拾い上げた。

「ごめんな」
 また謝罪の言葉を口にのぼらせて達也は郁子を見つめた。
「あいつをあんたにまかせるよ、なんて言えればカッコいいんだろうけど、とても言えそうにないや」
「うん。わたしだって困るし」
 小さな声でつぶやいた郁子を、達也は複雑な表情で眺めていた。



 遊びに夢中になっているうちに夏休みは半分をすぎた。
 そのころ郁子は、どこからどう伝わったのか、彼女が修司と交際しているのを聞きつけた担任教師から呼び出しを受けた。

「修司が人間としていい奴だって良くわかってる。けれどあまり感心しないな。よく考えてみろ」
「はい」
 か細く返事をしたけれど、郁子には教師の言っていることがまるで理解できなかった。いったい何を考えろと言うのか?

 不思議だった。それまでの郁子は教師受けの良い優等生で、修司のような人たちの方をこそ理解できずにいたというのに、それがまるで反対になっていた。
 郁子にとって、修司の方がよほど信じられる存在になっていたのである。
「わたしね、修司くんと一緒にいられて、本当に楽しい。本当だよ」
 そう、口にさえした。修司はただ笑っていた。



 別れは唐突だった。
「オレたち別れようぜ」
 郁子はどうしてと問い返すこともできなかった。無言のまま見つめ返す郁子から顔を背けて修司は言った。
「やっぱりオレとおまえじゃ合わないし、おまえだって迷惑だろ」

 そんなことない、という言葉は喉の奥で凍りついた。
 おかしいな、と郁子はぼんやり思った。付き合いだした当初は、早く彼が自分に飽きて別れると言い出すことを心待ちにしていたというのに。おかしい。どうしてこんなにショックなのか。どうしてこんなに悲しいのか。

 郁子はようやく気がついた。自分が、修司のことを好きになっていたのだということに。