また膝を組んで汐里はパイプ椅子の背に凭れかかった。
「……郁子ちゃんはこいつのそういう心の隙間にハマっちゃったんだろうな。似た者同士というか。だから修司も怖くなって一度は郁子ちゃんを遠ざけたらしいよ。……聞いてない?」
「誰からだよ。郁子はそんな話をする奴じゃない」
「難儀だねえ」
 苦笑いする汐里を睨みつけて聡は話の続きを促す。

「……似た者同士って、考えることは同じだから歯止めがきかなくなるんだよ。本能でそれがわかってお互いの為に良くないって思ったのだろうけど。こいつは根っこが自分に甘い男だから郁子ちゃんにそばにいてほしくて仕方なかったのだろうね。退学になったって聞いたときにはボッコボコにしてやろうと思ったけど、その代わり可愛いカノジョができた、今度紹介する、なんていい顔で報告するから、それならまあ、良かったのかなって私も思ったんだよ。そのときには。
 でも、あの朝、こいつが酷い有様で私のところに来て。ふたりで死ねると思ったのにダメだったって。それ聞いたとき、私の中でも色んなことがしっくりきたんだよね。こいつはこういうヤツだったんだって。死にたがりの甘えたがり。でもひとりで死ぬのは怖いからずっと相手を探してた。ヘタレのロクデナシだよね」

「それ本人に言ったのか?」
「まさか。私はそこまでサディスティックじゃないし。……でもそう、面と向かって罵られたほうが楽な場合もあるよね。あのときのこいつがどうだったかなんてわからないけれど」
 眉を曇らせ、改めてという感じで汐里は眠っている弟の顔を眺めた。
「疲れたって言って。もう自分、眠ったまんまでいたいって。何を言ってるんだかって思ったよ。まだ二十年も生きてないくせに、死に物狂いで何かしたことだってないだろうに。馬鹿にするんじゃないよって。なのにこいつはほんとに起きなくなっちゃって。眠ったまんまになっちゃって」

 汐里はくちびるを噛んで少し黙ってから聡を見た。
「この病院に来てから『郁子』って女の子が同じ症状で入院してるって知って。私呆れちゃったよ。ここまで考えることが同じなのかって。怖いね、似た者同士って」
「…………」
「寂しさを埋める相手を探すにしても自分とは違う人の方がいいんだよ。私はそう思う」
「牽制してるのか、けしかけてるのかどっちだよ」