「継母は売り言葉に買い言葉だし父も反対しなかったよ。自分のへそくりから引っ越し資金を出してくれて母と私はもう少しマシな部屋で暮らすことになった。そりゃあ、少しは罪悪感があったんだろうね。自分の不徳の致すところで離婚してもらったのに、自分はさっさと立ち直って新しい奥さんもらってさ。
 この騒動が起きて初めてわかったんだけど。修司は実の母親は死んじゃったんだって思ってたんだって。なんでかそう思い込んでたんだって。私は性格悪いから、もしかしたら継母に吹き込まれてたのかもしれないって疑ったりもしたけど、確かめることでもないしね。
 というわけで、私は父のところを離れて母と暮らし始めたの。そこにしばらくしてから修司が訪ねて来て……」
 ふうっと息をついて汐里はまたお茶を飲んだ。

「こいつは中学に上がってからやんちゃするようになってさ。お調子者の親分肌だから仲間に祭り上げられちゃうんだよね。学校のボスみたいになっちゃって、やれ机を壊しただの、自転車を盗んだだの、同級生を蹴っただの……ばっかみたい。それで継母も愛想が尽きたみたいでコロっと手のひらを返したの。
 父と継母の間には男の子が生まれてて、その子のいわゆる『お受験』に継母が力を注いでるときに修司が立て続けに問題起こしたのね。それで継母が激怒して私のときみたいにヒステリーですごかったって、後からそんな話を祖母から聞いて。多分そのときに修司は母に会ってみようって思ったのかな。
 ……あのね、坂本くんは一人っ子だからわからないかもだけど、きょうだいってライバルなんだよ。私は継母に可愛がってもらいたいわけではなかったけど、新しい家庭でうまく馴染んでのほほんとしてるこいつのことが気に食わなかった。一緒に暮らしてる頃はろくに口もきかないでいたんだよ。ひどいお姉ちゃんでしょ? だからこいつが私と母の部屋に来たとき、げって思った。嫌な気持ちになった。なにさ、お母さんは私のものなのにって気持ちだったんだろうな、あれは」