「私はといえば、どうにも継母に懐くことができなくて。向こうも私にはよそよそしかった。同性だから鼻につくところがあったんだろうね、お互い。そんな感じで中学生になったころ、なぜか実の母親のことが気になって」

 汐里は一瞬くちびるを引き結んで険しい顔になった。
「こいつや私の誕生日に、毎年プレゼントを送ってきてくれてたの。いつからか私は気づいてて、だけどそれを渡されたことは一度もなかった。父親が、おまえからだって渡せばいいんだ、捨てるなんてもったいないだろうって。継母は、気持ち悪いって。台所でこっそり口論してたのを聞いたことがある」
 そこで汐里は組んでいた足を下ろして今度は腕を組んだ。

「年賀状が届いているのも私は知ってて、それは祖父が自分の書簡入れに保管してるのも知ってたから、こっそり覗いて母の住処を調べたの。駅からバスで向かえる場所だとわかって私は母に会いに行った。
 日曜日の午後で、母は家にいるかなって緊張しながら出かけた。住所の建物の名前からして賃貸アパートだろうなって予想はしてたけど、行ってみたら灰色でボロボロな二階建ての小さなアパートですごくびっくりした。母は部屋にいて会うことができたのだけど、記憶の中のお母さんより小さくて老けててくたびれていて、それにもとてもびっくりした。
 母も驚いて、大きくなったねって私を部屋に入れてくれて。中を見て私はまたびっくりしたの。何もなくって。小さな冷蔵庫と小さな衣装ケースと小さなちゃぶ台しか部屋になかった。ポットの横に病院の薬の袋があって、お母さん病気だから働けないんだって話してくれた。
 ……後から聞いたことや知ったことなんかを総合すると。父と離婚して母も実家を頼ったけれど、一緒に暮らしてたお兄さんの奥さんと合わなかったみたい。それでまた実家を出て一人暮らしを始めたようなの。収入はほんとに短時間のパートタイムのお給料だけで、でも最初は祖父が月々の家賃を払ってくれてたらしい、のね」