「実はおばさんでびっくりした?」
「そんな、二年くらい……」
「坂本くん、ひとりっ子でしょ?」
「いきなりなんだよ。そうだけど」
「でしょ? きょうだい間の二年の歳の差って大きいんだよ。年長者は独裁者、年少者は下僕」
 それはそれは、と聡は頬を強張らせる。汐里はふふっと笑って修司の顔を見下ろした。
「馬鹿なオトコだよ。まったくねえ」

「……タチバナはどうして郁子のこと知ってたんだ?」
「郁子ちゃんは何も言わずに眠っちゃったの?」
 質問に質問で返されたが聡は頷く。
「俺は状況は何も知らない」
「でも修司のことは把握してた。そうでしょ?」
「……」
「大好きなお姫様のことだものね」
 どうにも事あるごとに汐里は聡を攻撃してくる。だがここで退くわけにもいかない。聞いておきたいことがある。

「こいつはあの朝、私のところに来て、全部話してくれたよ」
 口調を優しくして汐里は答えてくれた。
「郁子ちゃんに一緒に死のうって誘われて嬉しかったって。気持ちが楽になったって」
 かあっと怒りとも屈辱ともつかないものが起こってきて、聡はこぶしを握る。汐里が静かにそれを見つめる。視線に気がついて聡は力を抜いた。
「どうして」

「こいつは元からそうだったから。破滅主義というか、いつもどうなったっていいって考えてる。けど自分を強いと思ってるから自殺願望に繋がらない。それが郁子ちゃんみたいな子に一緒に死のうって縋りつかれて、自分が欲しかったのはこれだって思ったみたいよ」

「どうして」
「…………」
 汐里は考えをまとめるように空をあおぎ、それから聡に確認した。
「長い話になっちゃうけど、聞いてく? ざっくりまとめてほしければそうするけど」
「ちゃんと聞く」
「そ?」

 それならと、パイプ椅子を出すように汐里は手振りで聡に示した。自分もいったん立ち上がって汐里は椅子の向きを変える。彼女と向き合う形に座った聡は、そこで手にしていたレジ袋を汐里に差し出した。汐里への見舞いのつもりで買ったドリンク類だ。
「ありがとう」
 微笑んで礼を言ってから、さて、と汐里は足を組んでじっくり話す姿勢になった。