間もなく学校が夏休みに入ると、修司は毎日郁子を連れ回すようになった。二人きりで映画館やゲームセンターに行くこともあったし、修司の仲間たちも一緒に集まって、騒いだり遊びに行くこともあった。

 修司とすごした日々は郁子にとって驚きの連続だった。
 修司に連れられてアクション映画を初めて見にいった。初めて喫茶店に入った。夜遊びに出かけるのも初めてだった。テレビゲームもスケボーも修司に教えてもらった。
 良いことも悪いことも修司は郁子に教えてくれた。楽しかった、と思う。楽しかった、本当に。

 今まで遠巻きに怖いと思って見ていた修司の仲間たちも、実は気のいい優しいひとたちばかりだった。
「郁子か。かわいい名前だね。あたしのことは朱美って呼んでいいよ。あたしも郁子って呼ぶからさ」
 女子のリーダー格の朱美が真っ先に声をかけてきてくれて、
「修司の彼女なら仲間じゃんか」
「う、うん……」
 仲間たちの輪に一緒になっている郁子を見て修司は妙に嬉しそうだった。

 夏祭りの夜、海岸で夜通し花火をして遊んだときのことだった。
「おれさ、実はすごく驚いてんだ」
 郁子の隣で線香花火の細い火花を見つめながらそう話したのは、修司の親友の達也だった。

「あいつがあんたみたいなのを選んだっていうのがさ、すげえ不思議で……」
 はっと達也は郁子を見て慌てて言いつくろった。
「ごめんっ。悪い意味じゃなくてさ、あんたってこう、お嬢さんお嬢さんしたおとなしい感じだろ。だから」
 大丈夫、と郁子が笑うと、達也はほっと笑みを浮かべた。

「おまえさ、始め、おれらのこと怖がってただろ?」
「……」
「しょうがないよな、おれらこんなだし。でも今はこうやって普通に話ができてるだろ。嬉しいよな、そういうの。修司もきっと喜んでると思う」
 頬が熱くなるのを感じた。そんな郁子の隣で達也はとつとつと語った。

「あいつってさ、こう、あぶなっかしいんだよな。兄貴肌だしケンカは強いしとにかく頼りになる奴なんだけど、なんか、おれでもヒヤッてすることがあるよ。自分から坂道転げ落ちていくみたいな」