街灯の灯る長い長い坂道を二人きりで歩いた。等間隔に並んだ灯りだけが、行く先を示してくれる。
 寂しい光景だった。人の姿もない。なんの物音もしない深夜の住宅地は、この世界には自分たちしか存在していないのかもしれないとさえ思わせる静寂に満ちていた。
 この一軒一軒の家々の中で、人々が眠りについている。

 胸を突かれるような孤独感に襲われ、郁子は傍らの修司を見上げた。
 唇を引き締めて前だけを見つめ、無言のまま歩き続けていた修司は、郁子の視線に気がついたのか歩をゆるめて振り返った。
「……」
 視線が合う。けれど何も言えずに目を逸らしてしまった。


     *     *     *


 郁子が修司と付き合っていたのは二度の交際を合わせてもふた月にも満たない、たったそれだけの間のことだった。

 修司は勉強はできないがクラスのリーダー的存在で、その反面大多数の生徒たちに恐れられていた。
 生徒会のメンバーでもないのに活動に加わって行事があるたびにハメをはずしすぎて教師に睨まれたり、ふらりと授業中に姿を消してしまったり、そうかと思うと真夜中の体育館に忍び込んで他校の不良と一緒に酒を飲んだりと、そういった部類に属する生徒だった。

 だから修司に付き合ってくれと言われたとき、郁子はとにかくそれを本気にできなかった。郁子は少し勉強ができるだけが取り柄の、とにかくおとなしいだけの目立たない女の子だったから。彼のような有名人が自分に告白してくるなんて、からかわれているとしか思えなかった。

 けれど彼は本気だった。
「おまえって、女らしくていいなってずっと思ってたんだ」
 郁子は、ただ戸惑った。彼と自分とでは釣り合うはずもないと思ったし「悪い」と言われる部類の彼と付き合うことは、おそろしくさえ思えた。

 正直にそう話すと、修司は真剣な表情になって彼女に答えた。
「そんなの、付き合ってみなくちゃ、わかんねえだろ。それにオレ、思われてるほどムチャクチャじゃあないぜ。そのへん、おまえにわかってほしいんだ」
 そんなふうに誰かにひたむきに見つめられるのは初めてだった。郁子を相手に彼はこれだけ真剣になってくれているのだ。

 それでもなかなか決心はつかなかった。最後には押し切られる形でオーケーした。
 どうせすぐ飽きられるだろう。そう思っていた。それまでの我慢だと。