「なんだっつううんだよっ。ムカつく!!」
 気持ちが収まらない様子で朱美は花壇の縁をがんがん蹴りつけている。
 当の達也は解放された後も無言のままで何か落ち込んでいる風だった。修司もずっと怖い顔をしている。

「ちょっと……」
 不器用に誤魔化して郁子は皆のそばを離れ、ひとりで相談室の前に戻った。
 ぽつんと廊下で待っていると、やがて生徒会の彼女が相談室から出てきた。郁子を見てくちびるを引き結ぶ。
 そのまま行ってしまうから郁子はまた彼女の後ろをついて行った。
 授業中で人気のない玄関前の廊下に差しかかったところで彼女は立ち止まった。

「心配しなくてもお咎めなしですよ。達也先輩も……私も」
 にこりと笑う彼女を郁子は声もなく見つめる。
「おかしいって思いますか? おかしくないですよ。素行が悪い人と生徒会メンバーの私。これでバランスが取れてるんです」
「……最初からこうするつもりだったの?」
「私は計画通りにしただけです」
 計画って……、言いかけた郁子にかぶせて彼女がまた言った。
「これで収まらない人はもちろんいるでしょうが」

 わっと外から叫び声が聞こえた。
「……」
 郁子は顔を強張らせ上履きのまま玄関から外へ走り出す。校門の脇、クラブ棟の方から声がする。
「郁子ぉ……」
 駆けつけた郁子を涙ぐんだ目で朱美が見る。

 その先で仁王立ちした修司が右腕を振り上げている。こぶしを握ったその腕を達也が後ろから止めている。
 だが。修司の足元には既に顔をぼこぼこにされたバスケ部の大柄の男子が転がっていた。

「やっちまったよ。修司のバカ」
 弱々しく朱美が郁子の肩に抱き着いてくる。
「もうすぐ卒業だったのに……」
 朱美のかすれた声にかぶせるように、郁子の耳に彼女の言葉が繰り返された。
 計画通り……。




 達也を犯人扱いしたことへの謝罪をしないバスケ部員に業を煮やして暴力を振るい、修司は卒業式を目前にして退学処分になった。
「どうしてあと少しおとなしくしてられなかったんだ」
 担任教師は嘆いたし、
「おれのせいなのか……」
 達也はますます落ち込んでしまったが。
「何言ってんだ。元々オレはあの野郎が嫌いだったって知ってるだろ? おまえのことがなくたってどうせ殴ってたさ。せいせいしたぜ。退学くらいどってことないさ」
 修司はけろりとして言ってのけた。