ふいっと視線を逸らせて彼女は黙った。目を伏せて黙ってしまうと、彼女は少し幼く見えた。その顔はなんだか拗ねているようにも見える。切り出す言葉を考えあぐねながら、やっぱりかわいい子だな、と郁子は思った。
 だから修司も気に入ったのだろうか。以前郁子のことを「小さい」と言っていたが、目の前の彼女は郁子よりも小さい。

「先輩も、修司先輩の元カノなんですよね」
「え……」
 まっすぐに見つめられ郁子はとっさに言葉に詰まる。
「うん。そうかな……」
 あっと言う間に振られたけれど。
「小さくてかわいいって言われたんです。だからその気になっちゃったんです」
 先程までの敵意が嘘のように話し出され、郁子は目をぱちぱちさせる。もしかしたら、この子はこういう話を誰かにしたかったんだろうか。

「でも先生に言われたんです。修司先輩と付き合うなら生徒会入りはないぞって。だから……」
 自分と同じだ、と郁子は沈鬱な気持ちになる。自覚はなかったが、あのときにはもう修司を好きになっていたから別れようだなんて郁子は思わなかったけれど……。

「だから私、別れてほしいってお願いしたんです」
「……」
 ちょっとびっくりして郁子は目を上げる。その前のカノジョだった派手な一年生よりもこの子はずっと郁子に近い。だからてっきり郁子と同じように、修司から「合わない」と言われたんじゃないかと思っていたのに。

「そしたらあの人、鼻で笑ったんです。私のこと、それだけのヤツだよなって、馬鹿にしたんです」
 小さな肩が屈辱に震えるのを見て郁子は考えていた。修司はどうして郁子に別れようと言ったのか。

 ――やっぱりオレとおまえじゃ合わないし。

 あの言葉のままに受け取って、修司の気持ちを確認しようとは思わなかった。別れた後も、どうしてあんなに寂しい瞳で郁子に訴えてくるのか、切なく思っても確かめようとは思わなかった。

 ――修司には、ずっと前から好きな人がいるんだって。

「馬鹿にして。あっちこそ私のことなんか好きじゃなかったくせに」
 暗いつぶやきに郁子は意識を引き戻される。じっと彼女は足元の地面を睨みつけている。