母親は父親の休日を待って一緒に行くと言うから、聡はひとりで家を出た。
 町内にある神社に行こうとコンビニの前を通りかかる。中学の頃からの習慣で店舗の建物の方を窺う。
 ちょうど店内からレジ袋をぶら下げた郁子が出てきたところだった。
「あけおめ」
 声を張り上げると、郁子は目をぱちぱちさせ聡に近づいてきた。
「おめでとう」
 偶然会えたことが聡は嬉しい。郁子も少しはそう思っていると思いたい。

「どこか行くの?」
「初詣。一緒に行くか?」
「……肉まん買っちゃったんだよね」
「歩きながら食えば」
「行儀悪いよ」
 言いつつ郁子は初詣が気になるようだ。近所の神社ですませようと思っていた聡も考え直す。

「大社まで行くか?」
 電車を使えば屋台やら何やらで賑わっているだろう大きな神社に行ける。郁子は嫌がるだろうかと思ったがダメもとで提案してみる。
「そうだね。たまには」
 何をするにも面倒くさがる郁子が、迷わず頷いたことに聡は少し驚いた。

「いいのか?」
「うん。たまには。でも……」
 やはり気に障ることがあるのだろうか。聡は心配になったけれど。
「肉まん、どうしよ……」
「駅まで歩きながら食えよ」
 脱力した聡が言うと、しょうがないなあと郁子はがさがさと袋から肉まんを取り出した。



 予想以上に神社は混み合っていた。参拝するには、大通りに面した鳥居のところから順番待ちの列に並ばなくてはならないようだ。
「どうする?」
「進みは早いみたい。並んじゃえばそんなに待たないんじゃないかな」
 郁子が前向きなことを言うから聡はまた驚いてしまう。もごもご口ごもって同意しながらふたりで列に並んだ。

 郁子の言う通り、亀の進みながらも参道を進んで神池の橋の上に差しかかると、大きな池の向こう岸に屋台が出ているのが見えた。
「じゃがバタ食べたいかも」
「お参りがすんだらな」
 うんと郁子はマフラーに顎を埋めながら笑う。