午後の講義の後、帰ろうと思ってキャンパス内のメインストリートを歩いていたら脇のグラウンドがやけに賑やかだった。
「最後のクイズ大会を始めます。飛び入り可能ですので、参加する人は受付でリストバンドをもらってください」
 Tシャツにジャージの女子学生がメガホンで周囲に呼びかけている。

 当然スルーしようとした聡は後ろからいきなり腕を掴まれ驚いた。
「一緒に出よ」
 立花汐里がぐいぐいと聡を引っ張る。
「やだよ」
「いいから」
 綺麗な顔をして汐里の力は強い。

 受付でリストバンドをふたつ受け取って、汐里はひとつを聡の左手首に無理矢理通した。
「クイズにはずれたら返しにきてください」
 これが参加証代わりのようだ。続々とリストバンドをはめた学生たちが集まってきて、聡が思ったよりも参加者は随分と多い。

 既にグラウンドの中ほどにラインパウダーで大きく「○」と「×」が書かれてあった。
「受付終了です。始めるので参加者は集まってくださーい」
 メガホンを持った女子学生が手を上げている。
「じゃあ、さくさくいきますよ。考える時間はあまりないですからね。直感で動いてくださいねー」
 笑い声が起こったが「第一問!」の声でぴたっと静まり返った。

 問題が進むごとに参加者の人数は減っていったが、聡と汐里は最後の二問まで残ることができた。
「次いきますよー。問題! 夏目漱石の前期三部作といえば『三四郎』『それから』『こころ』。マルかバツか、どちらでしょうか! 移動してください」
 汐里がマルに移動しようとするのを聡は引き止める。
「違うよ」
 汐里はアーモンド型の目を意外そうに見開きながらも聡に従った。
「正解はバツです! マルにいる人はリストバンドをはずしてください。……次はいよいよ最後の問題でーす。これに正解すれば豪華賞品が貰えるので頑張ってください」

 最後の問題ははずれた。
「坂本くんの頭脳に期待してたのに」
 汐里は口を尖らせたがそんなのは聡の知ったことではない。あんなゆるキャラの名前など聡は知らない。