その違いは結局は、当の本人を郁子がどう思っているかだ。人の印象なんてそんなものだ。初めから悪いと思って見ているから悪く感じる。
 それに気づいて郁子はまた自分が嫌になる。

「郁子はもう回ったの?」
「うん」
「ふーん。じゃ、あたしは適当にぶらぶらしてくっから」
 体育館の方に向かう朱美と別れて校舎に入り、郁子は自分のクラスの展示に向かう。
 階段の途中にクラスの男子が三人固まっているのが視界に入って、思わず体を引っ込めていた。

「これで? ばれるんじゃないのか?」
「大丈夫だって。ささっとやって出てくれば……」
「暗くてすぐには気づかないだろうし、しらをきればいいんだって」
 不穏なやりとりに郁子の心臓は凍りつく。移動し始めた彼らの後からこっそり続く。当然のごとくクラスのお化け屋敷の前に辿り着く。

 お化け役たちが昼休憩に行っているのか、入り口には準備中の看板が立てられ、横の机に留守番係らしい女子生徒ふたりが座っていた。
 男子生徒三人は彼女たちと何か話している。廊下の端に隠れて窺っている郁子には、内容までは聞き取れない。

 すると女子ふたりが立ち上がり、入れ替わりに男子のひとりがそこに座った。留守番を交代するとでも言ったのだろうか。
 女子ふたりが廊下を行ってしまうと、もうひとりの男子が立て看板のない出口の方の扉をふさぐように立ち、あとのひとりが引き戸を開け閉めしてお化け屋敷の中へ入っていった。

 いてもたってもいられず郁子は首を伸ばして様子を窺う。見張りの男子ふたりは、ひたすら廊下を行き来する人たちに目を配っているようだった。
 それなら、と郁子は思い切って廊下の端ぎりぎりを速足で歩く。飛び込むように立て看板の内側にしゃがみ込み入り口側の引き戸を開けて中に入る。

「おいっ」
 見つかって叫ばれたがかまわず中に進んだ。ボードど暗幕で仕切って作った折れ曲がった細い通路を走る。暗くはあったが、準備の様子や間取図を飽きもせず見ていた郁子には中の様子は大体わかる。

 メインの脅かしポイントである井戸のある空間に出る。突き当たりのパネル絵は修司がいちばん力を入れて作ったものだ。おどろおどろしい黒い柳の枝の隙間から、金の折り紙を貼り付けた満月が乏しい光を反射している。
 まさにそこに向かってクラスの男子がナイフを振り上げていた。考える間もなく郁子はその腕に飛びつく。