勝手なものだ。自分たちはそんな暇はないとすげなくしておきながら、いざ目の前で楽しそうにされると気が食わないらしい。
 中には、少しなら時間あるから何か手伝わせて、と申し出る素直な生徒もいて、そうやって輪が広がれば広がった分だけ批判的に見ている人間の視線は刺々しくなる。自分勝手だ。

 郁子はその光景を見ているのが嫌で教室を出るのだった。



 当日にはお化け屋敷はなかなか好評なようだった。修司は、悪いことをするにも良いことをするにも仲間を煽るのが上手いのだ。自ら白いシーツを被ってお化け役に張り切っているようで、少し態度を軟化させたらしい朱美たちグループと合流してわいわいとやっていた。

 遠巻きにそれを眺めてから、郁子はあてもなく校内を一周する。途中、少しだけ仲の良い女子グループが一緒にまわらないかと誘ってくれたけど、郁子はそれを断った。

 昼時になって、食事をどうしようかと考えていると朱美に声をかけられた。
「ご飯一緒に行こう」
 模擬店が出ているのに、朱美は学校の外に郁子を連れ出した。
「疲れちゃったよ、もう。人のいないところに行きたい」

 コンビニでおにぎりを買って近くの児童公園のブランコに座って食べた。
「あの子さ、見た? あの一年」
「今のカノジョだよね……」
「まあ、もう持たないねえ。修司のがウザがってるもん」

 郁子は小さな口で明太子のおにぎりをかじりながら思い出す。修司の隣にいるあの子は、濃いアイメイクをしてとても目立つ子だった。そして更に思い出す。

 小さな頃、母親がメイクボックスを開けて化粧をする様子を見ているのが好きだった。キレイなお母さんのことが普通に自慢だった。
 それが段々と化粧が濃くなる母親のことが、郁子は嫌になってきた。特に夕方、これから夜になるというのに念入りに化粧をして出かけていく母親は、郁子の知らない生き物のようだった。

 気持ちが悪い。正直にいえば修司の傍らの一年生のこともそう思った。まだあどけない顔に濃い化粧をして、アンバランスもいいところだ。

 でも、と郁子は隣にいる朱美を横目に見て考え直す。朱美も化粧をしている。だけど不快には感じない。きれいだと素直に思う。