―翌日
目覚めると、一階から朝食を準備している音が聞こえた。
目が腫れているのは鏡を見なくともわかる。
昨日、どのようにして家に帰宅したのか正直あまり覚えていない。
枕元にあったスマートフォンのディスプレイを見て時間を確認する。
そろそろ起きようと上半身を起こした。
その時、詩が昨日手紙を残したと言っていたことを思い出した。
昨夜泣いたせいで頭も重く、痛みもある。体も鉛のように重たいのに、俊敏に机まで移動して一番上の引き出しを確認した。
するとそこには一枚の封筒があった。蒼君へと丸字で書かれた手紙は間違いなく詩が書いたものだ。
俺はまた目頭が熱くなるのを堪えて、封筒を取り出した。
深呼吸をして詩の手紙を読み始めた。
―蒼君へ
この手紙を蒼君が読んでいる時はもう私はいなくなっていると思います。
一か月前、”この世に元気な姿のままあたなの前に現れる”という奇跡が起きました。
その時にたまたま蒼君を見つけてたまたま蒼君が私の言うことを信じてくれて、そのあと仲良くなって私のやり残したことを手伝ってもらいました。
偶然が重なって蒼君と出会うことが出来たのだけど、思い返すとやっぱりそれは偶然ではなくて運命だったのかなって思っています。
蒼君がこれを聞けば少女漫画の読みすぎだって言うかもしれないけど、私は運命だって信じています!
蒼君との思い出は語りつくせないほどに沢山ありますね。毎日朝起きると蒼君が傍にいて毎日話し相手がいるって本当に幸せでした。
旅行も行ったね、デートもしたし学際の準備を手伝いに学校にまで行っちゃった!触れたら消えてしまうからいつも慎重になっていたね。恥ずかしいから面と向かって言えなかったけど手を繋いだり頬をつんつんしたり…とにかくたくさん触れ合いたかったです。(変な意味じゃないからね!)
そして、ここからが本題です。
実は私は蒼君のことが本気で好きです。大好きです。そう言ってもきっと冗談だって言われそうだから今まで黙っていたけど本当に好きです。
蒼君の好きなところはたくさんあるのですが、便箋が足りなくなってしまうので端的に伝えようと思います。
まずは一番キュンとしたところは二人で歩いていても必ず歩道側を歩いてくれるところです。胸キュンポイントでした。それから、感情の起伏がないように見えて実は心の中でいろいろ考えているところも好きです。(ギャップ萌えです)
一番好きなところは優しいところです。突然現れた女の子の願いを叶えるためにアルバイトまでしてくれる人はなかなかいません。ありがとう。
家族に手紙を渡すことが出来たのも蒼君のお陰だね。
私は一か月で消えてしまう存在だから、本当は好きだということを伝えるのはよくないと思っていました。でもどうしても伝えたいので手紙に残しました。
私は消えてしまうけど蒼君はまだまだ人生が長いから悔いのない人生を過ごしてほしいと思います。私のことは忘れちゃってもいいからね。
それから、蒼君は自分で思っているほど家族のことが嫌いということはないと思うよ。こんなことを他人の私が言う権利はないけど蒼君は家族のこと好きだと思う。
だから面と向かってぶつかったらいいと思う!きっとうまくいくよ。
大丈夫、きっと大丈夫だよ!
あと、余計なお世話かもしれないけど蒼君はひょろひょろだからちゃんとご飯食べてね!
学校もサボっちゃダメだよ!私ずっと天国から蒼君のこと見張ってるからね!
本当にありがとう。大好きです。
結局言いたいことは大好きというありふれた言葉しかないのだけど、本当に好きだから仕方ないよね。
随分長くなってしまったので、この辺で終わりにしようと思います。
最後に数行前に私のことは忘れてもいいと書いてしまいましたが、やっぱり少しくらいは覚えていてほしいなぁ、なんて思ってしまいます。
最後まで我儘でごめんね。
蒼君の人生がこれからもっと良くなりますように。
きっと、大丈夫だよ。
詩