「詩、ありがとう。大好きだよ」
 詩が大きく頷き、俺は両手を広げる。

 詩は戸惑うことなく、躊躇することなく俺の胸に飛び込む。
詩の体は細くて、でもちゃんと柔らかくてちゃんと普通の女の子だった。
 嬉しかった。ようやくこの手で詩を抱きしめることが出来たのだから。
詩から放たれる光が徐々に大きくなっていく。それがもう詩が消えてしまうという合図であることは分かった。力強く、どうか消えないでと願いながら俺は詩を抱きしめる。
 至近距離で詩の顔をみると改めて綺麗な顔をしていると思った。

「ようやく抱きしめられた」
「そうだね、私も男の子に抱きしめられるの初めて」
 詩が数回瞬きをしたあと、俺はそっと顔を近づけた。
お互いの唇が触れる。緊張や羞恥心などはなかった。詩は顔を離すと照れたようにはにかむ。

「蒼君、全部願い叶っちゃった」
「良かった、俺もファーストキスだ」
「私もだよ、最初で最後の…―キス」

 目を開けられないほどの光が詩から放たれる。
詩を離さないように必死に抱きしめるが、その感覚がなくなっていく。
 それがわかると俺は顔を歪めて泣いていた。
詩はそんな不甲斐ない俺にいう。

「最後は笑ってほしい」

 俺は無理やり口角を上げる。でも、涙は止まらない。詩も同じように涙を溢していた。
「ありがとう、蒼君。大好きだよ」
「俺もっ…大好きだ…っ―」

 しかし、その瞬間光が消えて詩の姿がなくなった。

「詩、詩―っ!詩、」

 たった今まで自分の腕の中にいた詩はいない。
俺は泣き崩れ、その場から動けなくなった。
 もっと詩と一緒に過ごしたかった、もっと詩をだきしめたかった、もっと詩に好きと言いたかった。すべてもう叶うことのない願いだった。

どれほど泣いていただろう、ふと夜空を見上げた。
 先ほどまで詩と一緒に見ていた景色を見ていると詩の声が聞こえた気がした。
俺は涙を拭い、立ち上がった。