「そろそろだね。蒼君と一緒に過ごせたこと、私の宝物だった。本当だよ、私蒼君を最初に見たとき正直ちょっと話しにくそうだなーって思ったけど話してみたらすぐに良い人だってわかったよ。…デートもして、夢のような時間だった」
「俺は、詩が来てから驚くほど自分が変わったと思う。人間ってここまで変わることができるんだって…びっくりしている。詩のお陰だよ」
「そんなことないよ。私はお願いごとを叶えてもらって感謝しかないのは私の方だよ。あ、そうだ…帰ったらさ、机の一番上の引き出し見てみてね。お手紙残しておいたから」
「手紙?分かった、見る。あのさ…―最後の願い、俺でいいの?」
 詩は照れくさそうに、視線を下に向け小さく頷いた。

「俺、ずっと詩に触れたかった。手を握ってデートだってしたかった」
「蒼君?」

 堰を切ったように言葉がどんどん紡がれていく。詩は口を半開きにして目を大きく見開いて俺を見つめる。

「気づいたら…―詩のこと好きになっていた。ごめん、最後にこんなこと言うの迷惑だってわかってる。でも、俺は詩のこと大好きだ。天真爛漫で小学生みたいな反応をするところも、それなのに度胸の塊で男子にも面と向かって自分の意見を言うし、俺なんかよりもずっと優しくて、誰とも仲良くなれる社交的なところも、全部…―好きだよ」
 詩はうんと頷いたあと、大粒の涙を溢す。
目を真っ赤にして一瞬で号泣する彼女は何度も何度も手の甲で涙を拭っていた。

「私も、大好きだよ。冗談だって言われるかもって思って、真面目に伝えることしなかったけど。私は、蒼君のこと大好き」
 人を好きになって、相手も同じように自分を好きになってくれる。
それは決して普通のことではなく、奇跡に近いことなのだと今初めて分かった。

「ちゃんと学校に行かないとダメだよ。嫌な人いたら私と同じように文句言ってやればいいよ」
「分かってるって。大丈夫、ちゃんと行くよ」
「私が消えちゃっても、ちゃんとご飯食べてね。最初会った時、ひょろひょろで驚いたから」
「分かってる。ちゃんと食べる」
「…私以外を好きになってももちろんいいからね。でもそうだなぁ。生まれ変わりがあるのなら次はちゃんと蒼君と生きている状態で恋がしたい。たくさん触れたいし、たくさん一緒の時間をっ…過ごしたいな」
「うん。俺も同じ気持ちだよ」
 話せば話すほどに、幸せなのに辛い。

と、その時。

 詩の体が光り出した。地面から風が吹いているわけでもないのに、詩の髪がふわっと浮き出す。スマートフォンの画面を見るとあと一分しか時間がない。お互い立ち上がった。