♢♢♢
五時限目が終了し、俺は帰路についた。
母親に事前に確認していたとはいえ、急に帰宅することになったら予定が狂うからその確認はそれとなくしてみた。
詩と一緒にいたこの一か月間は、鉢合わせしないようにと母親と連絡をする頻度が増えた。
今日は帰宅して夕食を食べ終えたら、星の見えるところへ行こうと約束をしている。
天気もいいから、運がよければ綺麗に見えるはずだ。
「ただいま」
鍵でドアを開けて二階にいる詩に聞こえるように言った。
「おかえり!」と二階から声が返ってきてそれを聞くだけでまた泣きそうになった。
気を抜くと泣いてしまいそうになるから俺は唇を噛み締め、絶対に詩の前では泣かないことを決意する。最後の最後までできれば笑顔でいたいからだ。
「夕食作ろう」
二階を上って俺の部屋のドアを開けると詩がベッドの縁に腰かけて笑っている。
詩だって、きっと…辛いだろう。
自分は消えてしまうのだから俺よりも辛いに決まっている。
「そうだな、今日は…ある程度は母親が作ってくれているからメインだけ作ろうかな」
「うん!冷蔵庫の中見たらね、副菜系は全部作ってくれているみたい!いいお母さんだね」
「…そうかな」
事あるごとに詩はいいお母さんだというものだから、自分ではそう思っていなくともそうなのだと思い込まされているみたいで嫌だった。でも今では仕事をしながら俊介の元へ通い絶対に忙しいはずなのに食事の準備をしてくれるのは感謝している。
詩は料理も好きなようで、元々母親が購入してくれていた食材で夕食を作る。
ダイニングテーブルに漬物とカボチャのサラダ、きんぴらごぼうとメインのトンテキを並べる。トンテキ以外は冷蔵庫に作り置きしてくれていたものだ。
いただきます、と言ってから食べ始める。詩の作ったトンテキは大袈裟ではなく本気で今までに食べた中で一番美味しかった。
それを詩に伝えると「照れるよ」と言って鼻を掻いた。
夕食を終え、それらの片づけも終えると俺たちは外靴を履いて家を出る。
しんと静まり返る辺りは既に日が落ちて真っ暗になっていた。
「今日は天気がいいから星が良く見えるね」
「それなんだけど、途中までバスを使っていこうと思ってる。最初は歩いていける距離で探していたんだけど、どうせなら星だけじゃなくて他にも観光できるような場所がいいなって思った」
「どこに行くの?」
「元町公園だよ。観光地とはいえ平日の夜だしもう学生も夏休みが終わったから混み合っているってことはないと思う」
「嬉しい!じゃあ行こう!」
まだ時刻は20時前だ。バスを使って函館駅まで向かった。
バスは田舎だから一時間に一本通っていればいい方なのだが、家を出たタイミングが良かったからすぐにバスが来た。
函館駅に到着すると、徒歩で元町公園に向かう。
元町公園へは基坂を通っていくのだが、坂の上にあるから港が一望できる。
花火大会があるとこのあたりは車で埋め尽くされる。七月に花火大会があったことを思い出して、ここに詩と来たかったなと思った。
「ねぇ、見て!夜の海も綺麗!」
「そう?怖くない?」
「怖くないよ!ほら、クリスマスでもないのに年中ピカピカ装飾されているから綺麗」
詩が一度足を止めて背後に広がる港を一望し感嘆の声を漏らす。
舗装された道は観光客用に常に清掃が行き届いていて、詩の言うようにクリスマスシーズンでもないのに装飾が輝いている。
「もう少しで到着するよ」
「うん、そうだね」
それから数分で元町公園に到着した。
元町公園には一組のカップルだけしか見当たらない。
五時限目が終了し、俺は帰路についた。
母親に事前に確認していたとはいえ、急に帰宅することになったら予定が狂うからその確認はそれとなくしてみた。
詩と一緒にいたこの一か月間は、鉢合わせしないようにと母親と連絡をする頻度が増えた。
今日は帰宅して夕食を食べ終えたら、星の見えるところへ行こうと約束をしている。
天気もいいから、運がよければ綺麗に見えるはずだ。
「ただいま」
鍵でドアを開けて二階にいる詩に聞こえるように言った。
「おかえり!」と二階から声が返ってきてそれを聞くだけでまた泣きそうになった。
気を抜くと泣いてしまいそうになるから俺は唇を噛み締め、絶対に詩の前では泣かないことを決意する。最後の最後までできれば笑顔でいたいからだ。
「夕食作ろう」
二階を上って俺の部屋のドアを開けると詩がベッドの縁に腰かけて笑っている。
詩だって、きっと…辛いだろう。
自分は消えてしまうのだから俺よりも辛いに決まっている。
「そうだな、今日は…ある程度は母親が作ってくれているからメインだけ作ろうかな」
「うん!冷蔵庫の中見たらね、副菜系は全部作ってくれているみたい!いいお母さんだね」
「…そうかな」
事あるごとに詩はいいお母さんだというものだから、自分ではそう思っていなくともそうなのだと思い込まされているみたいで嫌だった。でも今では仕事をしながら俊介の元へ通い絶対に忙しいはずなのに食事の準備をしてくれるのは感謝している。
詩は料理も好きなようで、元々母親が購入してくれていた食材で夕食を作る。
ダイニングテーブルに漬物とカボチャのサラダ、きんぴらごぼうとメインのトンテキを並べる。トンテキ以外は冷蔵庫に作り置きしてくれていたものだ。
いただきます、と言ってから食べ始める。詩の作ったトンテキは大袈裟ではなく本気で今までに食べた中で一番美味しかった。
それを詩に伝えると「照れるよ」と言って鼻を掻いた。
夕食を終え、それらの片づけも終えると俺たちは外靴を履いて家を出る。
しんと静まり返る辺りは既に日が落ちて真っ暗になっていた。
「今日は天気がいいから星が良く見えるね」
「それなんだけど、途中までバスを使っていこうと思ってる。最初は歩いていける距離で探していたんだけど、どうせなら星だけじゃなくて他にも観光できるような場所がいいなって思った」
「どこに行くの?」
「元町公園だよ。観光地とはいえ平日の夜だしもう学生も夏休みが終わったから混み合っているってことはないと思う」
「嬉しい!じゃあ行こう!」
まだ時刻は20時前だ。バスを使って函館駅まで向かった。
バスは田舎だから一時間に一本通っていればいい方なのだが、家を出たタイミングが良かったからすぐにバスが来た。
函館駅に到着すると、徒歩で元町公園に向かう。
元町公園へは基坂を通っていくのだが、坂の上にあるから港が一望できる。
花火大会があるとこのあたりは車で埋め尽くされる。七月に花火大会があったことを思い出して、ここに詩と来たかったなと思った。
「ねぇ、見て!夜の海も綺麗!」
「そう?怖くない?」
「怖くないよ!ほら、クリスマスでもないのに年中ピカピカ装飾されているから綺麗」
詩が一度足を止めて背後に広がる港を一望し感嘆の声を漏らす。
舗装された道は観光客用に常に清掃が行き届いていて、詩の言うようにクリスマスシーズンでもないのに装飾が輝いている。
「もう少しで到着するよ」
「うん、そうだね」
それから数分で元町公園に到着した。
元町公園には一組のカップルだけしか見当たらない。