「あなたの名前は?」
「…蒼、笹森蒼」
「蒼君って言うんだ。素敵な名前だね」
「…そうでもないと思うけど」
「そう?素敵だよ。綺麗な響き」

 社交辞令かもしれないしほとんどの場合そんな会話に意味はないのに初めて会った幽霊でもないでも死んでいる人間にそう言われほんの少し嬉しくなったことは言えなかった。

「私のことは詩って呼んでね」
「いや、別に呼ぶとかそういう関係じゃ…」
「でもこれも何かの縁だよ。別にもう消えてしまってもいいんだけど…せっかく一か月時間をくれたからやり残したことしたいなぁって」
彼女はそう言うと空を見上げた。その視線は空を見ているようで全く別のものを見ている気がした。
「え、何。俺それに付き合わされるってこと?」
「え?!手伝ってくれないの?」
「いやいや、無理だって。俺たち今日会ったばかりなんだから」
「そんなの関係ないよ!お願い!私蒼君がいい!蒼君に手伝ってもらいたい!」

 両手を合わせそう言った詩は“一生のお願い”という複雑な言葉を使ってくる。
一生どころか彼女の言うことが本当ならば一か月しか時間がないのだ。
俺は腕を組み逡巡した。今は夏休みだ。北海道は本州の学校と違い若干夏休みが短い。
一か月もない夏休み期間にやることと言えば夏の課題と夏期講習だが夏期講習はほぼ出ることはないだろうから暇なのだ。短いとはいえ、夏休みにほぼ予定のない俺は既に死んでしまっているという女の子の“やり残したこと”の手伝いをしてもいいのではないかと思い始める。

「ちなみに、本当に君は触れられると消えてしまうの?」
「そうだと思う。触れられたわけじゃないから私自身も懐疑的ではあるんだけど…死神さんが言っていたから本当だと思うの。死ぬ前に教えてくれたのも死神さんだったんだけど実際にこうやって死んだ後の時間をくれているし」