―前夜祭当日
今日は母親がいつも通り朝早くに仕事に行き、そのまま今日も明日も帰宅しない。
祖父母宅に泊まることは知っている。
でも詩のいる間はその方が都合はいいのは確かだ。
昼食を食べ終え、食器を食洗器の中に入れ片づけを終える。俺と詩はもう家族のように休日のルーティンとしてそれらを終えてテレビを見ながらソファでくつろいでいた。
前夜祭の開始は夕方18時からだが、準備や最終確認などがあるため集合時間は16時だ。
詩のお陰で前夜祭の衣装が完成したから出来れば詩にも楽しんでほしいのだが、さすがに他校生を呼ぶことは出来ない。それに詩の分の衣装はない。
「そろそろ家出ようか」
「そうだな。詩はどこにいる?終わったら一緒に帰ろう」
「うん。そうだなぁ、一応蒼君から回るルートは貰っているから時間差で一緒に回るよ。もちろん遠くからね。でも、凄いよね、平日のしかも金曜日の夕方、一番道路が混み合う時間帯なのに交通規制をかけてやるんだよね。伝統なんだろうけど、びっくりする。地元の人たちからも苦情もなく続けられるって信頼があるからだよね」
「まぁ、そうだね。俺は学際楽しみって思ったことないけど」
「もうっ!ちょっとは楽しまないと損だよ!もう嫌なこと言ってくる人いないでしょう?」
俺の顔を覗き込むように体勢を前かがみして訊く詩に「いない」と素っ気なく返した。
家を出る準備を終え、玄関先で靴を履き替えていると…―。
ガチャっと鍵が開く音がして俺も詩も体を硬直させる。
そして「ただいま、…って、え?」とドアを開ける母親は玄関にいる詩を視界に入れ俺らと同じような反応をした。
「あの…、初めまして。鈴村詩と言います」
「は、初めまして」
母親は目を瞬き、逡巡するとぎこちなく挨拶をした。
どういう関係なの?と目で俺に訴える母親に表情には出さなくとも内心ではパニックに陥る俺は咄嗟に目を反らした。
友人ですらほぼ自分の家に上げたことがないのに、同性ではなく異性を親に内緒で家に上げていたとなれば親は当然驚くだろう。
「すみません、ご挨拶もまだなのに勝手に家に上がってしまって。実は私、蒼君とは一年以上前から友達で。あの…今週中には本州に引っ越すことが決まっています。なので、最後に会いにきました」
「あぁ、そうなの。なんだ、もう少しゆっくりしていってちょうだい」
「ありがとうございます。でもこれから蒼君は前夜祭があるので。私も一緒に前夜祭を見ようかなって」
母親は随分とご機嫌で、おそらく詩のことを気に入ったのだろう。
嘘はあれどはきはきと怯むことなく俺の親が安心するようなセリフを言う。
「そうなの。分かったわ」
「なんで急にかえってきたんだよ」
「別にいいでしょう?今日は予定を変更してあっちには泊まらないことにしたの。だから明日はこっちの家から俊介のところに行くことになったから」
「…へぇ、そう」
詩は再度俺の母親に挨拶をすると二人で家をでた。
詩の機転の効く発言のお陰で不審がられることはなかった。
今日は母親がいつも通り朝早くに仕事に行き、そのまま今日も明日も帰宅しない。
祖父母宅に泊まることは知っている。
でも詩のいる間はその方が都合はいいのは確かだ。
昼食を食べ終え、食器を食洗器の中に入れ片づけを終える。俺と詩はもう家族のように休日のルーティンとしてそれらを終えてテレビを見ながらソファでくつろいでいた。
前夜祭の開始は夕方18時からだが、準備や最終確認などがあるため集合時間は16時だ。
詩のお陰で前夜祭の衣装が完成したから出来れば詩にも楽しんでほしいのだが、さすがに他校生を呼ぶことは出来ない。それに詩の分の衣装はない。
「そろそろ家出ようか」
「そうだな。詩はどこにいる?終わったら一緒に帰ろう」
「うん。そうだなぁ、一応蒼君から回るルートは貰っているから時間差で一緒に回るよ。もちろん遠くからね。でも、凄いよね、平日のしかも金曜日の夕方、一番道路が混み合う時間帯なのに交通規制をかけてやるんだよね。伝統なんだろうけど、びっくりする。地元の人たちからも苦情もなく続けられるって信頼があるからだよね」
「まぁ、そうだね。俺は学際楽しみって思ったことないけど」
「もうっ!ちょっとは楽しまないと損だよ!もう嫌なこと言ってくる人いないでしょう?」
俺の顔を覗き込むように体勢を前かがみして訊く詩に「いない」と素っ気なく返した。
家を出る準備を終え、玄関先で靴を履き替えていると…―。
ガチャっと鍵が開く音がして俺も詩も体を硬直させる。
そして「ただいま、…って、え?」とドアを開ける母親は玄関にいる詩を視界に入れ俺らと同じような反応をした。
「あの…、初めまして。鈴村詩と言います」
「は、初めまして」
母親は目を瞬き、逡巡するとぎこちなく挨拶をした。
どういう関係なの?と目で俺に訴える母親に表情には出さなくとも内心ではパニックに陥る俺は咄嗟に目を反らした。
友人ですらほぼ自分の家に上げたことがないのに、同性ではなく異性を親に内緒で家に上げていたとなれば親は当然驚くだろう。
「すみません、ご挨拶もまだなのに勝手に家に上がってしまって。実は私、蒼君とは一年以上前から友達で。あの…今週中には本州に引っ越すことが決まっています。なので、最後に会いにきました」
「あぁ、そうなの。なんだ、もう少しゆっくりしていってちょうだい」
「ありがとうございます。でもこれから蒼君は前夜祭があるので。私も一緒に前夜祭を見ようかなって」
母親は随分とご機嫌で、おそらく詩のことを気に入ったのだろう。
嘘はあれどはきはきと怯むことなく俺の親が安心するようなセリフを言う。
「そうなの。分かったわ」
「なんで急にかえってきたんだよ」
「別にいいでしょう?今日は予定を変更してあっちには泊まらないことにしたの。だから明日はこっちの家から俊介のところに行くことになったから」
「…へぇ、そう」
詩は再度俺の母親に挨拶をすると二人で家をでた。
詩の機転の効く発言のお陰で不審がられることはなかった。